vol.14 「外国出願補助金編」(経済産業省 特許庁 総務部普及支援課 支援企画班 矢作翔一担当)
中小企業などの海外進出支援にあたって、特許、実用新案、意匠、商標の外国出願に要する費用を補助する「外国出願補助金」。
「外国出願補助金」は、中小企業などの外国出願に要する費用を、特許庁が独立行政法人日本貿易振興機構(以下「ジェトロ」という。)や各都道府県の支援センターなどを通じて補助するものです。
全国実施機関のジェトロでは、2018年7月2日(月)から2018年8月3日(金)が公募期間で、全国の中小企業などの皆さまが申請できます。
中小企業などの皆さまが海外において円滑に販路開拓や営業活動を進めるためには、進出国での特許、商標などの知的財産権を確保し、活用することが重要です。また、これらの権利取得は模倣品被害の対策にも有効な手段です。
そこで今回は、外国出願を検討されている中小企業の皆さまに本補助金の申請のポイントや留意点などをお伝えします。
(2018年6月14日インタビュー実施)
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中小企業の外国出願を支援!
近年、日本企業のグローバル展開が活発化し、海外進出を遂げる中小企業が増加しています。海外への事業展開は、顧客獲得や販路開拓の道が開く一方で、模倣被害や海外企業から権利侵害を訴えられ、高額の損害賠償を請求されるといったリスクを伴います。そのため、特許権などの知的財産権を取得することは、中小企業の海外展開事業を後押しするとともに自社の財産を守ることになります。
しかし、海外での権利取得に要する費用は高額であり、中小企業にとっては大きな負担にもなっています。そうした現状を踏まえ、特許庁では「中小企業等外国出願支援事業」において、外国への事業展開などを計画している中小企業などに対して、特許、実用新案、意匠、商標の外国出願にかかる費用の半額を補助する「外国出願補助金」を実施しています。
本補助金は、2008年度から各都道府県の支援センターなどを通じてスタートし、2014年度に、全国実施機関としてジェトロが加わり、全国統一での実施となりました。支援実績としては、2017年度には826件もの支援件数に達しました。これは、全国統一実施となった2014年度に比べて1.5倍の支援件数です。繰り返して利用する中小企業も多く、需要が高い事業となっています。
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平成30年度外国出願補助金の概要
本補助金は、中小企業者または中小企業者で構成されるグループが対象です。グループの場合には、中小企業者が3分の2以上を占めていなければなりません。また、個人事業主も申請が可能です。
なお、「地域団体商標の外国出願」については、商工会議所、商工会、NPO法人なども対象になります。ただし、大企業が実質的に経営に参画している場合など、いわゆる「みなし大企業」に該当する企業は、対象外となりますのでご注意ください。
補助対象となる経費は、外国特許庁への出願手数料、PCT国際出願※1の国内移行費用、ハーグ出願費用※2、マドプロ出願費用※3、国内外代理人費用および翻訳費です。
補助率は2分の1以内で、外国へ特許、実用新案、意匠、商標の出願を予定している中小企業などに対し、外国出願に必要な費用の一部を補助しています。なお、本補助金では、冒認出願の対策を目的とする商標の外国出願も補助対象です。冒認出願とは、悪意の第三者による商標などの先取り出願のことです。
本補助金では、その対策を目的として外国へ出願する商標を「冒認対策商標」として支援しています。「冒認対策商標」は、悪意の第三者に自社の商標を先取りされることを防ぐ有効な手段となります。本補助金の上限額は、1企業あたり300万円です。また、特許・実用新案・意匠・商標・冒認対策商標の案件ごとにも上限額が定められており、図「補助金の概要」のとおりです。ジェトロでは、上限額以内であれば件数に制限はなく、複数の応募が可能です。
ジェトロの公募期間は、2018年7月2日(月)から8月3日(金)までです。また、すでに公募が終了している各都道府県の支援センターなどにおいても、実施機関によっては、2次以降の公募を行う場合があります。なお、各都道府県の支援センターなどには、その地域内に本社または支社などの事業所がある企業の申請が可能です。
各都道府県の支援センターなどの公募状況は、以下のホームページをご覧ください。▶特許庁「平成30年度中小企業知的財産活動支援事業費補助金」ホームページはこちら
(用語解説)
※1 PCT国際出願:
PCT国際出願とは、特許協力条約(PCT)に基づく国際出願のことで、1つの出願書類を条約に従って提出することによって、PCT加盟国である全ての国に同時に出願したことと同じ効果を与える出願制度です。※2 ハーグ出願:
ハーグ出願とは、意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく国際出願のことで、意匠について、1つの国際出願手続により国際登録簿に国際登録を受けることによって、複数の指定締約国における保護を一括で可能とするものです。意匠の国際登録制度を利用した簡易かつ低廉な手段により意匠の保護を受けることが可能となります。※3 マドプロ出願:
マドプロ出願とは、標章の国際登録に関するマドリッド協定の議定書に基づく国際出願のことで、1通の出願書類を日本国特許庁に提出することにより、加盟する複数国に一括して出願した効果を得ることができる手続方法です。ただし、日本国特許庁に基礎となる自己の商標登録出願もしくは商標登録があり、それと標章が同一で指定する商品(役務)が同一またはその範囲内であることが条件となります。 -
応募要件のポイント解説
本補助金は、以下の(1)から(4)を満たすことが申請要件となっています。
(1)応募時に既に日本国特許庁に対して特許、実用新案、意匠又は商標出願済みであり、採択後に同内容の出願を優先権を主張して年度内に外国出願を行う予定の案件(ただし、商標については優先権がない案件も可)
(2)先行技術調査等の結果からみて、外国での権利取得の可能性が明らかに否定されないこと
(3)外国で権利が成立した場合等に、「当該権利を活用した事業展開を計画している」又は「商標出願に関し、外国における冒認出願対策の意思を有している」こと
(4)外国出願に必要な資金能力及び資金計画を有していること
(1)の要件については、日本での特許、実用新案、意匠または商標出願の申請が済んでいなければなりません。また、優先権を主張しない出願は、国内出願が原因となって新規性を喪失し、権利取得の可能性が否定される場合もあるため、対象とすることができません。ただし、商標については優先権がない案件も申請が可能です。なお、ダイレクトPCT出願※4やハーグ出願も補助対象となりますが、いずれも出願時に日本国を指定締約国に含み、ダイレクトPCT出願については日本国に国内移行することが条件となっています。
また、(3)の要件については、具体的な海外への進出計画が必須であり、その点を申請書に記載する必要があります。ただし、「冒認対策商標」で申請する場合、冒認出願の対策の意思があれば、海外での事業計画は必要ありません。
申請にあたっては、以上のような要件を満たしていただくことが必要です。なお、本補助金は、支援決定後に外国出願する案件が対象です。そのため、すでに外国特許庁に出願している案件は対象外となります。また、日本国内での出願申請に係る費用など、支援決定前に発生した費用についても、補助対象にはなりませんのでご注意ください。
(用語解説)
※4 ダイレクトPCT出願:
PCT国際出願には「日本国特許庁に特許出願し、優先権主張して出願するPCT国際出願」と「国内出願がないPCT国際出願」があります。後者を通称でダイレクトPCT出願と呼びます。 -
申請には先行技術調査(先行登録調査)が必要
本補助金は、申請後にジェトロまたは各都道府県の支援センターなどの審査委員会によって審査が行われ、採択・不採択が決定されます。ジェトロの審査は、書面審査で行われますので、採択されるためには申請書の記載がポイントになります。
ジェトロでは、申請は郵送もしくは持ち込みで受け付けており、郵送書類の内、「間接補助金交付申請書〔様式第1-1〕/〔様式第1-2〕」については、電子媒体(ワードファイル)を別途メール送信することが必要です。
詳細は、ジェトロの外国出願補助金ホームページと募集案内、申請書記入例をご覧ください。▶ジェトロが実施する同補助金の募集案内や申請書記入例などは、こちらから
申請要件の(2)「先行技術調査等の結果からみて、外国での権利取得の可能性が明らかに否定されないこと」を詳しく説明します。
本補助金は、知的財産権を活用して中小企業の海外展開を支援することが制度の趣旨であるため、出願国で権利化の可能性が明らかに否定されないこととしています。そのために申請時に先行技術調査(先行登録調査)報告書の提出が必要です。先行技術調査(先行登録調査)とは、自社の特許・実用新案・意匠・商標に関連する分野における拒絶理由となる先行出願の有無を把握するための調査です。
この先行技術調査の費用は、本補助金の申請前に発生する費用となりますので、補助対象経費には含まれません。しかし、出願国での拒絶理由通知や高額な応答費用の発生などを避けるためにも、弁理士などの専門家に依頼し、先行技術調査をすることをお勧めします。
専門家による先行技術調査は、補助対象外の費用が発生するものですので、それに代えて先行技術調査とすることができる一例を、以下のa)~c)の出願内容別にご紹介します。a)特許(パリルート※5)・実用新案・意匠の場合
基礎となる日本の出願を早期審査請求しており、すでに何らかの拒絶理由通知が出ている場合は、その通知書と意見書、補正書を補助金申請書と併せて提出することで、先行技術調査報告書の代わりとして提出することが可能です。b)特許(PCT国際出願)の場合
すでに「国際調査報告書」(ISR)または「国際調査機関見解書」(ISA)が作成されている案件では、別途、先行技術調査を行う必要はありません。ただし、新規性、進歩性などについて指摘のある場合については、申請書の「12.出願の新規性、進歩性、創作性等(先行・類似調査の状況を含む。)」の欄に、その指摘に対する出願時の補正案などの記入が必要です。「国際調査報告書」(ISR)または「国際調査機関見解書」(ISA)が作成されていない場合は、上記a)と同様になります。c)商標出願の場合
商標は、特許などとは違い、出願国内での先行出願の範囲内でしか審査されないため、日本国内での先行登録調査では外国出願において意味をなしません。専門家による調査が最善策ではありますが、申請者自身で、簡易の先行登録調査を行っていただくことも可能です。最低限の調査として、出願予定国の商標が検索できる商標情報検索サイトなどを使用し、出願予定国を含めた先行登録調査をすることが必要になります。ジェトロでは、無料商標検索サイト「TMview」と「ASEAN-TMview」を利用した、初心者向け商標先行登録調査方法及び報告書サンプルを紹介しています。詳細は、図「商標情報の検索方法について」をご覧ください。
また、ジェトロでは「中小企業商標先行登録調査・相談」事業による支援も行っています。
出願予定国が、中国、香港、韓国、タイ、シンガポール、ベトナム、米国、フランス、ドイツのいずれかであり、応募条件を満たしていれば、無料で先行登録調査を行ってもらうことも可能です。加えて、外国における無料データベースの種類や使用方法などで不明な点がある場合には、「知財総合支援窓口」をご活用ください。「知財総合支援窓口」は、各都道府県に設置されており、中小企業や中堅企業などの皆さまが経営の中で抱える、アイデア段階から事業展開、海外展開までの知的財産に関する悩みや相談を、窓口支援担当者が無料かつワンストップで受け付けています。
(用語解説)
※5 パリルート:
パリルートとは、パリ条約による優先権を主張して、条約の同盟国ごとに直接出願をすることです。パリ条約による優先権とは、パリ条約の同盟国(第一国)において特許出願した者が、その特許出願の出願書類に記載された内容について他のパリ条約の同盟国(第二国)に特許出願する場合に、新規性、進歩性などの判断に関し、第二国における特許出願について、第一国における出願の日に出願されたのと同様の取り扱いを受ける権利です。 -
担当者のメッセージ
今回ご紹介したジェトロを通じての申請は、書面のみでの審査となるため、申請基準や申請書の記入に充分に留意して準備を進めることが重要となります。
申請書の中では、特に「9.外国特許庁への出願の動機・目的」や「10.出願(予定)国における事業展開計画(出願(予定)国を選んだ理由も含む)」に欄について、充分に記入していただくことがポイントです。これらの欄の記述は、申請企業の考えや事業計画を審査委員が判断する目安となります。
また、「13.過去における出願実績及び権利取得状況(国内及び外国)」も、審査委員に対して自社の知財活動の実績をアピールするポイントです。
その他、ジェトロに実施する本補助金の申請方法などについて相談がある方は、以下の「ジェトロ知的財産課 外国出願デスク」にお気軽にお問い合わせください。
ジェトロ知的財産課 外国出願デスクTel:03-3582-5642
E-mail:SHUTSUGANDESK@jetro.go.jp
2016年版中小企業白書第2部第3章第3節1によれば、海外進出の大きな課題となっているのが「現地パートナー企業・商社等の確保」といった販路開拓です。
本補助金のフォローアップ調査によれば、外国出願は模倣品被害などの抑止力になるだけでなく、新たな販路開拓にも有効になっている、というお声を頂いています。
海外進出を検討されている企業様には、新たなビジネスチャンスにもつながるため、本補助金をぜひ活用していただきたいです。