認定支援機関の支援を受けながら、新商品開発にチャレンジ【支援機関とともに 金融機関編】
支援機関の一つに、「認定支援機関(経営革新等支援機関)」があります。認定支援機関は、中小企業・小規模事業者が安心して経営相談などを受けることができるように、経営の専門知識のある個人や団体を認定する制度です。
具体的には、商工会や商工会議所の他、金融機関、税理士、中小企業診断士、公認会計士、弁護士などが認定支援機関として認定されています。
「支援機関とともに」では、具体的な事例を通じて、様々な支援機関の活動についてご紹介していきます。
今回は、「金融機関」が認定支援機関として、中小企業・小規模事業者に対して、どのような支援を行っているかについて、しずおか焼津信用金庫の事例を通じて、ご紹介します。
認定支援機関 | しずおか焼津信用金庫(静岡県静岡市葵区相生町1番1号) |
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支援企業 | 有限会社T.N.M.INTERNATIONAL |
有限会社T.N.M.INTERNATIONAL
- 設立:
- 2000年創業 2004年法人改組
- 企業概要:
- 葬祭用品などの木材・木製品の輸入卸売
- 所在地:
- 静岡県静岡市駿河区下川原2丁目30番8号
- ホームぺージ:
- http://www.tnm-intl.com/
葬祭用品の輸入卸売で、業績を伸ばす
有限会社T.N.M.INTERNATIONALは、葬祭用品などの木材・木製品の輸入卸売を行う。家族3名(社長・妻・長男)の典型的な小規模企業である。
創業は2000年1月。木材関連の輸入商社に勤務していた増田英雄社長が、50歳を目前にして「新しいことに挑戦したい」と起業した。創業当初は、サラリーマン時代の経験と人脈を活かした、住宅建材の輸入と卸販売が事業の中心だった。その後、家具・インテリアの輸入販売などに力を入れてきたが、他社との価格競争・販売競争が激しくなり、建材・家具などの住宅分野の売上は伸び悩んでいた。
このような中で、順調に業績を伸ばしてきたのが、位牌や骨箱などを扱う葬祭用品分野である。同社で企画開発した葬祭用品を、中国協力工場で製造・輸入して、全国の葬祭用品商社に販売。現在、葬祭用品分野の売上は同社の90%以上を占めるまでに成長、事業の中核を支えている。
一方で、増田社長は葬祭用品分野の将来について、不安を感じていた。高齢化の進展にともない葬祭関連のニーズは高まっているのだが、消費者のライフスタイルや価値観の変化から、事業の成長が見込みづらくなる状況に陥るのではないかと危惧していた。
そこで将来の事業発展を見据えて、同社の経験や技術、ノウハウ、ネットワークノウハウを活かしながら、新しい市場を開拓していきたいとの思いが強くなっていた。
金融機関を窓口とした、専門家とのマッチング
しずおか焼津信用金庫とは、増田社長のサラリーマン時代からのつきあいだった。その頃は「金融機関は、お金を預けるところ、借りるところ」という認識だった。創業してからは資金調達などの相談をしていたが、やはり「お金を借りるところ」という意識は変わらなかった。
金融機関との関係が大きく変わったのは、商品開発の相談がきっかけだった。
「中国の協力工場との打合せのため、何度も中国に行くうちに、倒流香(とうりゅうこう)というお香を知りました。煙が空気よりも重いため、香炉で立てると下に流れて、幻想的な雰囲気をつくりだすお香です。この倒流香を使った新商品を開発できないかと考えるようになりました(増田社長)」
しずおか焼津信用金庫東新田支店に、新商品の構想を話すと、専門家の活用等を提案された。
「当初より当金庫がご相談の窓口となり、まずは豊富な実務経験、専門知識、人的ネットワーク等を有する企業OB等との貴重な出会いの場である「第1回静岡市新現役交流会」(2018年6月)をご紹介し、同交流会を通じ販促支援の専門家とのマッチングが成立しました。その後専門家派遣制度などを活用して、同専門家に商品開発のサポートをしていただきました。当金庫も伴走支援を継続しながら、事業遂行に役立つ支援策等を随時ご提案しております。(北川支店長)」
経営資源の少ない、小規模企業にとって新商品開発のハードルは高い。専門家の支援を受けながら、増田社長のアイデアをブラッシュアップすることで、商品の企画開発を進めていった。また、専門家のネットワークから、商品デザイン会社を紹介してもらい、デザイン面でのアドバイスをしてもらったことも大きかったと、増田社長は振り返る。
認定支援機関による、補助金申請の支援
同金庫は認定支援機関として、専門家と協力しながら、新商品の試作開発・販路開拓を支援してきた。
2019年3月、同金庫のお客様サポート部が中心となり、新しい事業活動のための中期計画「経営革新計画」の申請を支援。「流煙+ライティングの演出と自然な香りで癒しを提供する香炉の開発と販売」で承認を受けることができた。
同年10月、試作品開発を目的として、経営革新計画に基づいた補助金「経営革新計画促進事業費補助金」の申請を行い、採択された。
同年12月には、税制面・融資面でメリットのある「経営力向上計画」の策定を支援。
2020年5月には、販路開拓を目的として、前年と同様に「経営革新計画促進事業費補助金」の申請を行い、採択された。
このような支援について、同金庫お客様サポート部の大塚貴義推進役は、以下のように語る。
「当金庫は、お客様の事業をサポートするために、補助金申請のアドバイス、経営革新計画や事業承継計画の策定支援、後継者育成セミナー、外部専門家の紹介、ビジネスマッチングなどを行っています。他の金融機関でも、同様の取り組みをしているところも多いのではないでしょうか。これから、私たち金融機関の認定支援機関としての役割はますます大きく、重要になっていくはずです(大塚推進役)」
同金庫では、静岡市と藤枝市に「相談プラザ」を設置し、外部支援機関・専門家と協力しながら、事業者の経営課題の解決に向けた様々なサポートを行っていると言う。
五感に響くモダン香炉「夢宙」の開発
専門家と金融機関の支援を受けながら、新商品の開発を進めていくなかで、「五感に響くインテリアグッズ」とのコンセプトが明確となり、2021年1月にモダン香炉「夢宙」が完成した。
モダン香炉「夢宙」は、円筒形のモダンなデザインの香炉である。円筒の上に倒流香(空気より重いお香)を立てると、煙がゆらゆら上から下へ流れる。その煙が16色に変化するLEDの光に照らされて、クリスタルのオブジェとともに幻想的に輝く。①煙の流れ、②お香の香り、③LEDの輝きという三つの楽しみ方ができる商品である。
夢宙のターゲットは若者層・女性層、アロマテラピーのような癒しグッズ市場を狙う。いままでの葬祭用品の市場とは異なる、新分野への挑戦である。
「大手バラエティグッズショップ、雑貨店、ホームセンターなどでの販売を予定しています。また、インターネット販売も準備中です。新しい分野への挑戦なので不安もありますが、専門家や金融機関等からのアドバイスもいただきながら、売上を拡大していきたいと考えています(増田社長)」
将来的には、葬祭用品分野への商品展開、中国・欧米などへの輸出も検討したいと、増田社長は夢を語る。
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