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130年の老舗呉服店が、飲食業・菓子製造業に挑戦【支援機関とともに 商工会編】

補助金虎の巻
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「認定支援機関(経営革新等支援機関)」とは、国が経営の専門知識のある個人や団体を認定する制度であり、税理士・社会保険労務士・中小企業診断士などの専門家が認定支援機関として登録されています。

今回の「支援機関とともに」では、130年の歴史をもつ老舗呉服店が、カフェ(飲食業)、菓子製造業に挑戦した事例を紹介します。飲食業・菓子製造業の知識やノウハウがない呉服店が、商工会を通じて、専門家の派遣、事業計画の策定、補助金活用などの支援を受け、新事業の経営を軌道に乗せることができました。

有限会社数田呉服店「天仁庵」
認定支援機関

呉市広域商工会(音戸支所/広島県呉市音戸町鰯浜1丁目3-14)

支援企業 有限会社数田呉服店「天仁庵」
企業概要 カフェ、呉服販売、菓子製造販売、雑貨・衣料品販売
所在地 広島県呉市音戸町引地1-2-2
WEBサイト http://tenjinan.jp/外部リンクはこちら

老舗の呉服店が、新業態「飲食業」に進出

数田呉服店は、広島県呉市の南、本土と倉橋島を結ぶ音戸大橋のたもとで、130年の歴史を刻んできた老舗の呉服店である。音戸大橋の下を流れる海峡は「音戸の瀬戸(おんどのせと)」と呼ばれ、多くの商船が行き交う重要航路として知られており、この辺りは平安時代から瀬戸内海の商港として栄えてきた。古い日本家屋が軒を連ねる町並みには、いまも往時の面影が残る。

2012年3月、同店は呉服店舗をリニューアルし、カフェ・ギャラリー・ブティック等の業態をプラスした複合型のコンセプトショップ「天仁庵」をオープンした。このリニューアルプロジェクトの責任者となったのが、同店の五代目、数田祐一専務である。

数田専務

「この町で130年にわたり商売を続けてきましたが、呉服業は右肩下がりであり、このままでは事業継続も難しいと感じていました。ちょうどその頃、大河ドラマ等で観光地として音戸が注目されてきたこともあり、呉服店の歴史ある建物と、音戸の情緒豊かな町並みを活かして、新しいビジネスができないかと考えました(数田専務)」

その新しいビジネスの柱がカフェだったが、飲食業は学生時代にアルバイトしていた経験ぐらいしかない。「飲食業の知識やノウハウを補いながら、経営を軌道に乗せるためにはどうしたら良いだろうか」と思い、呉広域商工会に相談。その担当が佐々木隆司経営指導員である。

佐々木経営指導員

「数田さんのお話をうかがうと、新業態への挑戦ということで、要するに『新規創業』と同じようなものでした。そこで、専門家派遣制度の活用を提案し、専門家から飲食店経営の基本的な知識、店舗のオペレーションの方法をアドバイスしてもらいました。くわえて商工会として、新店舗のオープンに向け、事業計画の策定、経営革新計画の認定支援、公的な融資の申請等を総合的にサポートしていきました(佐々木経営指導員)」

事業計画では、経営の数字を明確にしなくてはならない。飲食業と小売業では、人件費・材料費などの原価の考え方も大きく異なる。佐々木経営指導員のアドバイスを受けながら、メニュー価格、客単価・客数目標などを設定し、売上目標を立てていった。「事業計画の数字一つ一つに根拠を考えなくてはならない。苦労したが、店舗オープン前に事業計画を策定したことで、経験のない業種にも関わらず順調なスタートが切れたと思う」と数田専務は振り返る。

音戸大橋

音戸大橋

音戸の町並み

音戸の町並み

天仁庵の日本庭園

天仁庵の日本庭園

天仁庵のランチ

天仁庵のランチ

地域資源を活かした「菓子製造業」に挑戦

天仁庵は、地域の食や文化等を提案する、複合型のコンセプトショップである。1階には、地域の食材にこだわった「カフェ」、クラフト作品を展示販売する「ギャラリー」、心地よい素材やデザインをテーマにした「ブティック」がある。2階の「イベントスペース」では、呉服店の着物の展示も行う。(不定期で着物や陶器など様々な催しを行う。)

天仁庵の売上の柱になっているのが飲食部門、カフェ「shunpu」である。「春風接人(春風のような温かなおもてなし)」をモットーに、倉橋島近海の新鮮な魚や地元の野菜を使った料理、地元のフルーツを使ったケーキやワッフルなどのオリジナルスイーツを提供し、若い女性層や子育てファミリー層の人気を集めている。呉服店時代にはシニア女性層が中心だったが、カフェ・ギャラリー・ブティックの複合業態になったことで、顧客層は大きく広がった。

また、近年「音戸の瀬戸」が観光名所として注目を集めるようになり、音戸を訪れる観光客も増えてきた。観光サイトや旅行雑誌などで、古い町並みの中にある高感度なカフェとして天仁庵が紹介されたこともあり、観光客の姿も目立つようになった。

数田専務

「オープン当初は集客面で不安がありましたが、メディアや口コミで評判が広がり、若い世代のリピーターも増えてきました。カフェの経営が軌道に乗ったこともあり、次のステップとして、地域の特産品を活かした商品開発に挑戦したいと考えるようになりました(数田専務)」

頭のなかには、「音戸をすてきな場所にしたい、訪れた方に喜んで頂きたい。」との思いもあった。
2018年、地元の特産品を活かした菓子づくりのために、古民家を改修。ものづくり補助金を活用し、フルーツや海産物等の食材の鮮度を保つための「急速冷却冷凍機」、菓子やふりかけの生産向上のための「スチームコンベンションオープン」等の設備を導入した。ものづくり補助金の申請にあたっては商工会のサポートを受けた。

佐々木経営指導員

「数田さんから、音戸の地域資源である、ちりめん・柑橘類などを使った商品を開発したいとの相談をいただきました。事業の革新性や地域経済への貢献などについて、ものづくり補助金の趣旨とも合致していたことから、補助金の活用を提案させていただきました(佐々木相談員)」

天仁庵では、音戸ちりめんを原料にしたふりかけ・せんべい、地域の柑橘類のジャム、オリジナルのスイーツなどを製造し、店頭やインターネットで販売。地域の人々はもちろん、音戸の特色ある土産品として、観光客からの人気も高い。

カフェスペース

カフェスペース

商品ラインナップ

商品ラインナップ

抹茶のガトーショコラ

抹茶のガトーショコラ

事業の「選択と集中」で、さらなる成長を

現在、同店の売上は飲食部門(カフェ)の売上が同店の6割を占め、既存事業である呉服業を抜いて、中核事業に成長した。利益率など収益への貢献で考えると、飲食部門が圧倒的である。今後は飲食部門に加えて、菓子製造部門を事業のもう一つの柱に育てていきたいと数田専務は言う。

数田専務

「新型コロナウイルスの影響で飲食部門の売上が急激に落ち込んだ時に、テイクアウトやインターネット通販で、スイーツ・菓子類の売上が経営を支えてくれました。事業の多角化が経営リスクの分散につながったのです(数田専務)」

その一方で、ヒト・モノ・カネなどの経営資源が限られているなかで、漫然と多角化を進めることはできない。実は、同店では呉服店とは別に衣料部門として、地域で実用衣料品のフランチャイズ店を経営していた。しかし、過疎化と人口減少により、衣料品部門の売上は年々減少していた。

佐々木経営指導員

「今後の事業展開のなかで、FC衣料品部門を撤退するかと相談を受けました。経営戦略の策定支援をすすめるなかで、勇気ある部門撤退という選択肢もありではないかというお話をしました。(佐々木経営指導員)」

経営戦略の策定にあたっては、各部門別の売上予測、人員体制、市場データなどに基づき、SWOT(強み・弱み・機会・脅威)分析を行い、今後の事業ポートフォリオを整理した。その戦略に基づき、経営資源を飲食部門と菓子製造部門に集中させることとし、2020年にFC衣料品部門から撤退した。

数田専務

「呉服部門は創業からの歴史もあり、地域の人々から必要とされる限り、続けていきたいと考えています。また、経営戦略を策定するなかで、音戸の地域資源を活用していくことが、これからのビジネスの鍵を握ると感じました(数田専務)」

音戸には、平安の昔から商港として栄えた歴史があり、旧道沿いには古き良き日本の町並みが残る。幅90mの海峡「音戸の瀬戸」にかかる二本の赤い大橋の下を、1日に大小の700席の船が往来し、まるでヨーロッパの地中海のような風景が広がる。豊かな海の幸、山の幸、野の幸にも恵まれた地域だ。

佐々木経営指導員

「天仁庵は、地域の人々や観光客など多くの人々が訪れる、音戸の名所に成長しつつあります。今後も地域資源を活かしたビジネスを支援することで、音戸の町の活性化につなげていければ、これ以上の喜びはありません(佐々木経営指導員)」

いま同店では、「観光」をテーマとした新事業を検討しているところだと言う。「音戸をすてきな場所にしたい、訪れた方に喜んで頂きたい。」との思いは、天仁庵のオープンを決意した時から、今も変わっていない。

相談風景

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