金融機関と行政が連携し、地域ブランドとして商品開発を支援【支援機関とともに 金融機関編】
「認定支援機関(経営革新等支援機関)」とは、国が経営の専門知識のある個人や団体を認定する制度であり、税理士・社会保険労務士・中小企業診断士などの専門家が認定支援機関として登録されています。
今回の「支援機関とともに」では、地域に密着した金融機関である地元の信用金庫が、行政や商工会議所と連携しながら、地域企業の商品開発、ブランディング、販路開拓をサポートした事例をご紹介します。
認定支援機関 |
柏崎信用金庫(新潟県柏崎市東本町1丁目2-16) |
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支援企業 | 柏崎ユーエステック株式会社 |
企業概要 | 情報処理機器・事務機器・家庭機器・環境機器の開発製造販売等 |
所在地 | 新潟県柏崎市藤井1350 |
WEBサイト | http://www.k-ust.jp/ |
金融機関と行政が連携し、チームで経営課題を解決
柏崎市は、新潟県のほぼ中央に位置する市である。日本海に面した長く美しい海岸線と、米山・黒姫山・八石山の豊かな自然に恵まれたまちだ。明治時代には油田が開発され、日本最初の製油会社が設立されるなど、古くから産業が発達してきた。市内には切削加工、メッキ、鋳・鍛造、プレス、金型などの中小の製造業が多く、「ものづくりのまち」と知られている。
柏崎ユーエステック株式会社は、そんな柏崎市のものづくり企業の一つである。主な事業は家庭機器・環境機器・情報機器の開発・製造で、自社ブランドで商品を販売する他、OEM製品の受託開発・製造も行っている。
「当社はもともと大手編機メーカーの工場でしたが、2011年に会社分割により誕生しました。このような設立経緯もあり、取引先は首都圏を中心に全国に広がっています。正直なところ、地域との結びつきはあまり強い企業ではありませんでした(髙橋社長)」
と同社の髙橋光夫社長は語る。
柏崎信用金庫地域支援室の山田秀貴室長は、2017年3月、「チーム柏崎ファクトリー」のメンバーとして同社を訪問した。
チーム柏崎ファクトリーとは、2016年11月に同金庫と柏崎市が包括連携協定を結んだことを契機にスタートした取組みの一つである。同金庫と柏崎市の職員、専門コーディネーター等が「キャラバン隊」を組み、市内のものづくり企業を訪問して、販路開拓・知財活用・補助金活用等の支援を行い、企業が抱える経営課題の解決をめざすというものだ。チーム柏崎ファクトリーとして、同社を訪問した時の第一印象を山田室長はこう振り返る。
「ヘアアイロンやマルチクリーナー(掃除機)等の商品を見て、柏崎市にこれほど商品開発力ある中堅企業が存在していることに驚きました。そして、ぜひ支援していきたいと思いました(山田室長)」
ヘアアイロンは、同社設立の第1号自社商品だ。技術部門が開発、設計、製造、商品化までを一貫して行った。
マルチクリーナー(掃除機)は、水の浄化能力をフィルターに活用した掃除機である。掃除の時のホコリっぽさを解消し、排気もクリーンであることが特徴だ。
柏崎市のものづくり企業のほとんどは部品メーカーで、大手自動車メーカーや機械メーカーのいわゆる「下請企業」が中心である。同社のように、商品企画から設計、製造、商品化までできるメーカーは少ない。
同社のような技術力と開発力のある企業は、地域の活性化、雇用の創出に欠かせない。「柏崎市の中核企業になれるのではないか」と山田室長は大きな可能性を感じたと言う。
マルチクリーナー(掃除機)
地域ブランド商品として、オゾンガス発生器の販路を拡大
同社の主力商品には、水の浄化作用を活用した「マルチクリーナー(掃除機)」をはじめとして、水道水からミネラル還元水素水をつくる「ミネラル還元水素水生成器」、除菌・脱臭効果のあるオゾンガスをつくる「オゾンガス発生器」など、独自技術を活かしたユニークなものが多い。
そのなかでも、新型コロナウイルスの感染拡大により衛生意識が高まるなかで、「オゾンガス発生器」が注目を集めていた。同社では、このような社会のニーズに応えて、「ポータブルオゾン発生器」の開発を進めていた。ポータブルオゾン発生器は、部屋、車内、トイレなどの除菌・脱臭に最適な機器であり、モバイルバッテリーでも使えるため、外出先でも利用できるのが特徴だ。
「もともと技術力には定評がありましたが、いままでOEM委託生産が中心だったこともあり、販売力については課題がありました。そこで、柏崎の地域ブランド商品として『ポータブルオゾン発生器』の販路拡大を進めていったらどうかと提案しました(山田室長)」
同金庫では、柏崎市、NIIGATAみらいプロジェクト(新潟三越伊勢丹×新潟博報堂)と連携して、「地域ブランドづくり支援事業」に取り組んでいる。この事業は、柏崎市の地域ブランド商品の育成のために、商品開発から販売までをワンストップで支援するもので、柏崎市発の商品開発をサポートしてきた。同社が開発を進めるポータブルオゾン発生器は他にはないユニークな商品であり、「柏崎の地域ブランドとして全国にアピールしたい」と山田室長は考えた。
「地域ブランドづくり支援事業を通じて、自社商品の販路開拓に向けた営業ツールの見直しや課題・強みを整理できたことで、今後のBtoC事業成長に向けた可能性を感じています。(髙橋社長)」
また、柏崎市の新型コロナワクチン接種会場へのポータブルオゾン発生器の寄付や柏崎市のふるさと納税の返礼品に同商品をはじめ同社のオゾン関連商品が採択されるなど、本事業への参加をきっかけに地域との結びつきも強まっている。
ミネラル還元水素生成器
ポータブルオゾン発生器
経営支援・創業支援を通じて、地域の未来に活力を
柏崎信用金庫は、柏崎商工会議所、新潟工科大学・新潟産業大学等と経営支援の連合体である地域プラットホーム「かしわざき広域ビジネス応援ネットワーク」を設立し、同ネットワークでは、地域企業への経営相談、セミナー・勉強会の開催、創業支援などを通じて、中小企業を支援してきた。
「大都市への一極集中が進むなかで、他の地方都市と同じように柏崎市でも若者の人口流出が深刻な問題となっています。このままでは、地域の経済は縮小・衰退していくばかりです。地域産業の活力と雇用の場を創りだすために、当金庫は中小企業の経営支援や創業支援に取り組んでいます(山田室長)」
柏崎市内の事業者の99%以上が中小企業者であり、その事業者数は減少傾向にある。この減少傾向に歯止めがかからなければ、雇用・生産の低下、消費活動の停滞などにより、地域活力の失われてしまう。地域活性化という点からも「柏崎ユーエステックのような企業に成長していって欲しい」と山田室長は言う。
「今回のポータブルオゾン発生器の商品開発を通じて、地域社会との関係が深めることができました。今後は技術開発の分野でも、産学官金の連携を進めていきたいと考えています(高橋社長)」
商品開発のための投資は、中小企業にとって負担が重く、リスクは大きい。商品開発のための幅広い支援策を金融機関や行政に期待していると語る。
「柏崎市の発展には、独自の技術力を持ち、商品開発力のある企業が欠かせません。柏崎ユーエステックさんのような企業を育てていくことが、当金庫に課せられた使命だと思います(山田室長)」
今後も、同金庫として、行政、商工会議所、大学等と連携しながら、地域企業の経営課題の解決を支援するとともに、起業家を育てることで、地域の活性化に貢献していきたいと語る。
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