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ものづくり補助金で「町のカンヅメ工場」がゼリー飲料事業を強化【支援機関とともに よろず支援拠点編】

地域資源
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「よろず支援拠点は、国が全国47都道府県に設置した無料の経営相談所です。売上を伸ばしたい、販路を拡大したい、新商品を開発したい、後継者がいないなど、中小企業・個人事業主の方が抱える様々な経営課題に、コーディネーターがアドバイスします。また相談内容に応じて、専門家の派遣や支援機関の紹介も行います。

岩手県よろず支援拠点は、盛岡市の公益財団法人いわて産業振興センター内に設置されています。そして、盛岡市の近隣だけでなく遠方の事業者の方も相談しやすいように、地域の金融機関を窓口・会場にした「合同経営相談会」を定期的に開催しています。

今回の事例の委託加工専門の缶詰瓶詰メーカーも、この合同経営相談会でよろず支援拠点のコーディーターに経営課題について相談しました。その後、コーディーターの支援を受けながら、ものづくり補助金を活用してゼリー飲料事業を強化。これにより、地域の農家の様々なニーズに応え、売上を大きく伸ばしています。

セイナン缶詰加工株式会社
認定支援機関

岩手県よろず支援拠点(岩手県盛岡市北飯岡2丁目4-26)

支援企業 セイナン缶詰加工株式会社
企業概要 缶詰・瓶詰・レトルトパウチ等の委託加工
所在地 岩手県盛岡市西仙北1丁目11-13
WEBサイト http://www.seinan-k.com/外部リンクはこちら

個人がとったタケノコ等を缶詰にする「町のカンヅメ屋さん」

セイナン缶詰加工株式会社は、岩手県盛岡市にある委託加工専門の缶詰瓶詰メーカーである。「缶詰瓶詰の委託加工」と言っても、なかなかピンと来ないかもしれない。

缶詰瓶詰の委託加工では、顧客が自分で原材料を用意し、自分で加工処理し、自分で詰めた容器(缶・瓶)を工場に持ち込んでもらう。缶詰メーカーは、殺菌処理等をして缶詰瓶詰を完成させて納品する。つまり加工の最終工程だけを請け負う。顧客のほとんどは個人客で、つくるのは個人客の「自家用缶詰」。缶詰メーカーと聞くと大きな食品工場を連想するかもしれないが、小さな町工場をイメージした方がいい。同社も40坪ほどの工場で、個人客の缶詰を1缶からでも加工する。

岩手県・秋田県・青森県などの東北地方には、昔からこういった「町のカンヅメ屋さん」が存在した。自分で採取した「タケノコ・フキ・キノコなど」の山の恵みを、自家用の缶詰瓶詰にして家庭で保存するためだ。

セイナン缶詰加工株式会社正面

井上社長

「冷凍にすればよいのではと思うかもしれませんが、タケノコ等の山菜は冷凍にすると味が変ってしまいます。最良の保存方法の一つが、水煮の缶詰瓶詰にすることです(井上社長)」

同社の井上恭子社長は父親から平成24年に会社を引き継いだが、近年、缶詰瓶詰の委託加工業者は経営者の高齢化や山菜を採る人の高齢化、機械設備の老朽化等によって廃業が相次ぎ、事業環境は厳しくなっていた。そんな折、金融機関の担当者から岩手県よろず支援拠点との合同経営相談会への参加をすすめられた。

井上社長

「チラシに『なんでも相談できます』と書いてあったので、いろいろな経営の悩みや課題を相談してみようと思いました(井上社長)」

令和2年2月、井上社長は合同経営相談会に参加した。その時の相談相手が、千田直樹コーディネーターだった。

食品表示法への対応、生産能力向上について相談

岩手県よろず支援拠点は、地域の金融機関との「合同経営相談会」を定期的に開催している。岩手県は広いため、地域の事業者がよろず支援拠点のある盛岡市まで出向くのは大変なことから、地域の金融機関が窓口・会場になった相談会を実施するようになった。

井上社長の相談の一つは、食品表示法改正への対応だった。平成29年9月の改正で加工食品の原料原産地の表示が厳しくなった。自家用缶詰は食品表示法の対象外だが、近年フリマアプリ等のネット通販で自家用缶詰を販売する客が増えているため、トラブルが起きることを心配していた。

千田コーディネーター

「顧客と事業者の責任分担を受託契約書で明確にするようにアドバイスしました。これについては、よろず支援拠点の食品加工業に精通したコーディネーターが、契約書の作成を支援しました。(千田コーディネーター)」

もう一つの相談が、レトルトパウチ製品の生産能力の拡大である。同社は缶詰瓶詰の他に、農家から持ち込まれたリンゴを搾汁機で絞り、リンゴジュースのレトルトパウチを製造してきた。しかし5年ほど前からゼリー飲料のレトルトパウチの受注が増え、生産能力が不足していたため注文に応えられないケースが目立つようになってきた。缶詰瓶詰等の委託加工が伸び悩むなかで、ゼリー飲料は今後の有望な市場であり、ビジネスチャンスを活かしたいと考えていた。

千田コーディネーター

「相談会では、工場の移転拡大のための資金計画の相談を受けましたが、工場移転には費用面で大きなリスクがあります。それよりも生産体制を見直し、設備導入をすることでゼリー飲料の需要増に対応したらどうかとアドバイスしました。あわせて「ものづくり補助金」も紹介しました。(千田コーディネーター)」

ものづくり補助金は、中小企業・小規模事業者の設備投資等を支援する補助金である。補助金の申請にあたっては、事業計画書を作成しなくてはならない。千田コーディネーターは、ものづくり補助金の目的や概要を丁寧に説明しながら、「事業計画書の作成は簡単でない」ことも伝えた。

井上社長

「補助金の申請も事業計画書の作成も初めてです。千田さんの話を聞きながら、果たして自分ができるのだろうかとも思いましたが、とりあえず挑戦してみることにしました(井上社長)」

商品画像1

商品画像2

アドバイスを受けながら、ものづくり補助金の事業計画を作成

補助金の事業計画書では、自社のことを全く知らない他人(審査員)に読んでもらって、事業を理解してもらう必要がある。はじめのうちは、「缶詰瓶詰の委託加工の事業を分かりやすく説明することも大変だった」と井上社長は振り返る。

そして、自社・顧客・市場について整理しながら、経営課題とその解決策を一貫性のあるストーリーとしてまとめなくてはならない。さらには、事業効果を説得力のある具体的な数字で示すことが求められる。井上社長は、よろず支援拠点を何度も訪れて、千田コーディネーターのアドバイスを受けながら、自分で作成した事業計画書をブラッシュアップしていった。

井上社長

「ストーリーの組立方や強調すべきポイントについて教えてもらいました。他人に読んでもらうことを前提にした事業計画書を作成することで、客観的な視点から会社を見つめ直すことができ、課題をすっきり整理することができたと思います(井上社長)」

千田コーディネーター

「よろず支援拠点ができるのは、事業計画書作成のアドバイスだけです。事業計画書は事業者自身が作成しなくてはなりません。井上社長は非常に意欲的に取り組んでいました。計画書づくりを通じて、経営者としてワンランクアップしたと思います(千田コーディネーター)」

令和2年5月、苦心して作成した事業計画「6次産業化ニーズの高まりに伴う果汁ゼリー飲料受託製造の事業強化」を、ものづくり補助金の補助事業に申請し、採択された。

農家の多彩なアイデアをゼリー飲料にしていきたい。

ものづくり補助金では、①ゼリー飲料用パウチの充填・キャッピング機、②小型レトルト殺菌機、③パウチに直接印刷できるプリンターという三つの設備を導入した。
いままではジュースとゼリー飲料の生産ラインを兼用していたが、ゼリー飲料の専用ラインができたことで、生産性は大きく向上した。

井上社長

「ゼリー飲料という商材は、リンゴの収穫時期以外の収入につながるため、リンゴ農家の方に喜ばれています。(井上社長)」

ゼリー飲料の生産能力が向上したことで、リンゴゼリー以外の委託加工に対応できる余力ができた。すると、地域の農家から他のフルーツや野菜を原料にしたゼリー飲料ができないか、果肉入のゼリー飲料ができないかなどの相談が増えてきた。これからゼリー飲料の小ロット生産に対応できる強みを活かして、それぞれの農家のオリジナリティあふれる商品開発を応援していきたいと、井上社長は言う。

千田コーディネーター

「地域農業の活性化にも、同社は貢献しています。今後もよろず支援拠点として、伴走支援を続けていきたいと思います(千田コーディネーター)」

ものづくり補助金を活用した設備導入で、ゼリー飲料の売上は大きく伸びた。缶詰瓶詰の売上拡大は今後の課題だが、競合事業者が減少するなかでマーケットを広げるチャンスは十分にある。これから販路開拓のための支援に力を入れていきたいと、千田コーディネーターは語る。

相談風景

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