事例から学ぶ!「資金繰り」
事業活動には、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)が欠かせません。
そのなかでも「カネ」は、しばしば企業の「血液」にもたとえられる重要な経営資源です。企業は赤字になっても倒産しませんが、カネ・資金がなくなると帳簿上では黒字だとしても倒産してしまいます。それは、人が血液なしで生きていけないことと似ています。
資金繰りは、企業の血液ともいえる「カネの流れ」を管理することであり、企業の生死に直結するものです。
今回は、ミラサポplusの「事例ナビ」から、資金繰りと資金調達にかかわる事例をご紹介します。
資金繰りの第一歩は、「資金繰り表」の作成から
資金繰りが悪化する原因としては、様々なものがあります。一つは、赤字が続いていることです。毎月10万円の赤字が1年間続いていたら、年間120万円。このままでは近いうちに、資金不足になるのは避けられません。無理な設備投資も、資金繰りの悪化の原因になります。設備投資の借入金により、運転資金に余裕がなくなります。
資金不足による倒産を防ぐために、資金繰りの第一歩として月次の「資金繰り表」を作成しましょう。資金繰り表とは、「いつまでに」「いくら」の入金があるのか、「いつまでに」「いくら」支払う必要かを記したものです。資金繰り表には、「予測」と「実績」の項目があり、予算の項目には予測数値を、実績には実際の現金収支を記載します。
資金繰り表で、資金の流れを把握していれば、運転資金がショートする前に資金調達の策を考えることができます。無理な設備投資を防ぐこともできます。
経営者のなかには、「資金繰り表なんて当然じゃないか」と感じる方も多いと思います。しかし、小規模事業者などでは作成していないことも少なくありません。また、金融機関に提出する融資のための書類として作成しているだけで、活用しきれていない企業も多いのではないでしょうか。
すでに「資金繰り表」を作成しているという経営者は、次の段階として「月次決算」にも挑戦しましょう。月次決算で利益管理をすることで、迅速な経営判断ができるようになります。会計ソフトなどのITツールにより、月次決算で利益管理する企業が増えています。
たとえば、北海道の建設会社は、IT導入補助金を活用して会計ソフトを導入。月次の利益管理により、社員の原価意識を高めています。
ニーズを見極め設計関連の対応領域を広げてきた。大手ゼネコンや住宅メーカーを顧客とする。意匠設計と構造設計など、複数の技術を持つことでシナジー効果があり、一気通貫のサービスを提供できるのが特徴 CGやVR、最近では3D測量による図面化などにもチャレンジする 経営においてはスピードを重視し、パソコンは2年強で買い替え、作業環境を整えるなど、積極的に設備投資を行っている 時間内にこなせる仕事量を増やすことを重視。オリジナルの日報システムを持ち、10分単位で記録をつけている
キャッシュフローを分析し、経営改善につなげる
「キャッシュフロー経営」という言葉を聞いたことがありますか。文字通り「キャッシュフロー(カネの流れ)」を重視した経営のことです。
企業の経営状態を把握するためには、売上高・営業利益・経常利益など記載された「損益計算書」がよく使われています。しかし損益計算書だけで、「実際の現金・預金の流れ」を把握することは困難です。決算書の書類のうえでは利益が出ていても、売掛金や仕入債務、投資資金などで、手持ちの運転資金が不足してしまうケースがあります。このようなことを防ぐために、キャッシュフロー経営では利益だけでなく現金収支を重視した経営を行い、経営基盤を強化します。
前述した資金繰り表は、いつ、いくらの入金や支払いがあるかをまとめています。この資金繰り表が「将来のキャッシュフローを予測」するものであるのに対して、「現在のキャッシュフローを把握」するためのものが「キャッシュフロー計算書」です。どちらも、キャッシュフロー経営には欠かせません。
キャッシュフロー計算書では、キャッシュフローを営業活動、投資活動、財務活動の3つに分けて、その増減要因を分析します。これにより経営課題を抽出し、売掛債権の早期回収、在庫の圧縮、遊休資産の処分などのキャッシュフロー改善のための取組をすすめていきます。
資金繰りをサポートする、新たな金融サービスの活用
企業間取引では、手形や売掛金での支払い、いわゆる「ツケ払い」も多くなります。たとえ1億円の注文があっても売掛金の回収より前に、5,000万円の仕入代金を支払わなくてならないとなると資金がショートする可能性があります。資金繰りの面から言えば、売上等の回収サイトを短く、仕入れなどの支払サイトは長くするのが理想ですが、取引先との関係もあって簡単にはいきません。もちろん下請法に違反するような取引条件はNGです。
このような中で、企業の資金繰りを支援する様々な金融サービスが登場しています。その一つが「トランザクションレンディング」です。銀行の融資は、財務情報等の過去の実績情報を元に借り入れ条件が決定されますが、このサービスでは日々の取引(トランザクション)データを元に借入条件を決めていきます。信用力の不足により、資金繰りが厳しくなりがちな創業期などで、トランザクションレンディングは有効な資金調達の手段になるかもしれません。
たとえば、東京都で、家具の企画開発販売を手掛ける会社は、トランザクションレンディングを活用して資金を調達しています。
創業期において、金融機関から事業や収益性への理解を得られない中で、トランザクションレンディングを活用して資金を調達し、事業を成長させた。
また、サプライチェーン全体の資金繰りを改善する金融サービスとして、「サプライチェーン・ファイナンス」があります。これは、発注企業の信用力を利用して売上債権を早期に現金化する金融サービスで、手形よりも費用・手間が少ないのが特徴です。
東京都の金属建材会社では、サプライチェーン・ファイナンスを導入して、決済業務の効率化と、取引先企業の資金繰り安定化を図っています。
サプライチェーン・ファイナンス の導入により、仕入先に対しては売掛債権の低利かつ早期の現金化を行うことを可能にしたほか、同社においても、支払業務の簡略化や手形の発行・管理業務の大幅な削減などにより、1か月あたり20~30時間程度の業務量を削減につながり、経理部門の人員を1人削減、月額100万円以上のコスト削減効果を得られた。
電子帳簿保存法などをきっかけに、取引の電子化・デジタル化がすすんでいます。これから金融と情報技術を組み合わせた、新しい金融サービス(フィンテック)が登場することが予想されます。資金繰りの安定化のために、このようなサービスを積極的に利用するのも、一案です。
必要な時に必要な資金を調達できる体制づくり
資金繰りを安定させるためには、必要な時に必要な資金を調達できる体制づくりが必要です。
資金繰り(運転資金)のための資金調達方法として、最も一般的なのは金融機関からの借入です。日頃から金融機関・支援機関と良好な関係を築き、自社の経営状況についての理解を求めておきましょう。その時、「資金繰り表」があり、返済計画まで盛り込んであれば、金融機関の協力も得やすくなります。
金融機関の借入以外の方法としては、「出資を受ける」方法があります。いままではベンチャーキャピタルや個人投資家から出資を受けることが主流でしたが、近年はクラウドファンディングが注目を集めています。これは、インターネット等を通じて、不特定多数の人々から少額ずつ資金を調達する方法です。
新型コロナウイルスの感染拡大により資金繰りが悪化した新潟県の遊園地は、クラウドファンディングによる資金調達で、危機を乗り越えました。
感染症流行の影響を受け、売上大幅減。2度目の経営存続の危機に直面し、資金繰りに奔走したが、経営再建中とあって思い通りに融資してくれる金融機関は見付からなかった。 最後の頼みの綱として活用したのがクラウドファンディング。支援者への返礼には、「1日貸切り権」などユニークなものも用意し、5,500万円もの支援金が集まった。返礼品の「1日貸切り権」を修学旅行に利用する中学・高校があったことをきっかけに、団体利用も増加。9月、10月の売上げは、前年同月を大きく上回った。
地震や風水害のような自然災害、新型コロナウイルスのような感染症など、被災により資金繰りが悪化することもあります。突発的なリスクに対応するために、長期的なリスクファインスとして「損害保険」の活用も重要です。
岡山県の建設会社では、堤防の決壊により事務所・車両が水没しましたが、水災対応の損害保険に加入していたため、事業再建を果たすことができました。
保険金を被災後の売上減少による当座の運転資金、事業再建に必要なパソコンや事務所設備、建築用工具、トラック等などの営業車両の購入に充てることができた。
「資金繰り」の悩みを、専門家・支援機関に相談しよう
借入金などの資金調達によって、一時的に資金繰りが解決したとしても、赤字が続いていたら、いずれ資金不足に陥ります。経営改善・収益力改善しない限り、資金繰りの根本的な問題を解決することはできません。
国が設立した無料の経営相談所「よろず支援拠点」や商工会議所・商工会等の支援機関に相談してみましょう。アドバイザー・専門家の支援を受けながら、経営の課題を一つ一つ解決し、資金繰り悪化の根本的な解決を図ってください。
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