新分野展開のため、マシニングセンタとパレット搬送システムを導入【支援機関とともに 金融機関編】
補助金は、国や自治体の様々な政策目標を達成するために、企業や個人事業主の取り組みを支援するための制度である。補助金の制度目的や趣旨、条件に適した事業であるか、事業計画書等の申請書類に基づいて審査し、採択された事業者を補助金の採択候補者として選定される。採択候補者に選ばれるには、合理的で説得力のある事業計画を策定することが必要である。採択候補者は、事業計画に沿った事業の実施、経費の計上及び支払を行った上で、それら申請が確認後に補助金が交付される。
事業計画書の作成、補助金の申請は事業者自身で行う必要がある。今回の「支援機関とともに」では、機械部品メーカーが取引先の金融機関の支援を受け、事業計画書を作成し、新分野展開のためにマシニングセンタとパレット搬送システムを導入した事例について、実際の事業計画書を基に、作成のポイントなどについて伺った。
申請補助金 |
事業再構築補助金(第2回) |
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事業計画名 |
高精度化と生産性向上による金属機械加工分野での新事業展開 |
支援機関 |
静清信用金庫(静岡県静岡市葵区昭和町2-1) |
支援企業 | 株式会社石橋鉄工所 |
企業概要 | 精密機械部品、工作機械部品の製造及び組立 |
所在地 | 静岡県静岡市清水区北脇268 |
URL | http://simic.jp/member/290/ |
もう一つの事業の柱をつくるために、新分野展開を模索
石橋鉄工所は精密機械部品の切削・加工・組立等を主な業務とする、従業員11名の機械部品メーカーだ。事業の柱は、大手機械メーカーの溶接ロボット部品の製造・組立。熟練した技術者と精密マシニングセンタ・三次元測定機等の生産設備により、高精度な部品加工ニーズに応えることで、大手機械メーカーから信頼され、安定した経営を続けてきた。
しかし新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年初頭から主要取引先である大手機械メーカーが溶接ロボットを減産。このことにより、同社の売上は大きく落ち込んだ。
「大手機械メーカーからの発注が売上の大部分を占めていたため、経営への影響は深刻でした。新型コロナを経験して、一社に頼る経営はリスクが高いと痛感しました(石橋社長)」
石橋教志社長(当時専務)当時を振り返りながら、このように語る。これから企業として持続的に成長し、従業員の雇用を守っていくために、もう一つの軸となる事業が欲しいと感じた石橋社長は、父親である先代社長と相談しながら、自社の強みを活かした新分野への展開を模索した。そのきっかけとなったのが、「事業再構築補助金」である。
最初は手探り状態だったが、事業計画の方向性が見えてきた段階で、静清信用金庫の経営相談部に相談をした。
金融機関のサポートを受けながら、事業計画を作成
静清信用金庫経営相談部の篠原大記課長は言う。
「当庫の経営相談部は、資金調達・事業承継・M&A・人材採用・組織改革など、取引先企業の様々な経営課題の解決を支援しています。認定支援機関として、事業計画書の策定や補助金活用のサポートを行うのも業務の一つです。石橋社長から事業再構築補助金に挑戦したいとの相談を受け、中小企業診断士である経営相談部のスタッフが対応させていただきました(篠原課長)」
「事業計画書の作成にあたっては、最初から文章にしようと思わずに、公募要領の『事業計画作成における注意事項』の項目ごとに、思いつくことを箇条書きで書き出すところから始めました。そして、経営相談部スタッフの方にアドバイスをいただきながら、事業計画をまとめていきました(石橋社長)」
対話することで頭の中が整理され、事業計画がクリアになっていったと石橋社長は言う。現状分析の整理で役立ったのが、「SWOT分析」だった。経営相談部のアドバイスを受けながら、会社の内部環境(強み・弱み)と外部環境(機会・脅威)をまとめた後、クロスSWOTの「強み×機会」の「高度な技術力、測定力を生かした機械部品加工に取り組む」を、新分野進出の方向性とした。
また、市場環境の分析については、取引先の大手機械メーカーが株主・投資家向けに公開している「IR資料」等を参考にしながらまとめ、事業計画書にも記載した。
「事業計画書では、市場環境について客観的な資料をもとに記述することが求められます。インターネットを検索すると様々な市場データが見つかりますが、意外と役に立つのが関連分野の上場企業が公開しているIR情報です。現在の市場分析、将来の市場予測の参考になります(篠原課長)」
石橋社長は、経営相談部の支援を受けながら箇条書きした下書きを肉付・文章化して、事業計画書「高精度化と生産性向上による金属機械加工分野での新事業展開」を作成。事業再構築補助金の第二回公募に申請し、令和3年9月に採択された。
小ロット・多品種・低コストに対応した生産設備で金属機械加工分野へ。
同社の強みは、大手機械メーカーの溶接ロボット製造で培った、複雑・高精度の部品加工技術である。この技術を活用すれば、金属加工機械分野の部品加工ニーズにも応えることが可能だ。実際、今までにも専用工作機メーカー等から引き合いがあったが、従来の溶接ロボットの製造に特化した生産設備では、量産化とコスト等の面での対応が難しかった。
この課題を解決するため、事業再構築補助金を活用して導入したのが、「横型マシニングセンタ+パレット搬送システム」である。
「単に『新しい設備を導入したい』では、補助金を受けることはできません。補助金の目的や趣旨にあった事業であること、実現性の高い事業計画であることが求められます。(篠原課長)」
石橋社長は、事業計画に具体的なターゲット顧客を記載。顧客別に、5年後の売上見込を設定したうえで、売上目標を設定した。また、受注確保のための取組施策についてもまとめ、実現性の高い計画策定を心がけた。
令和4年10月、第二工場に「横型マシニングセンタ+パレット搬送システム」を導入。複雑・高精度な部品加工を行うマシニングセンタと、パレットに治具と部品を載せて搬送するシステムを組み合わせることで、小ロット・多品種・低コストの製品づくりが可能になるとのことだ。
実は、この設備導入の着前に病気療養中の先代社長が亡くなり、石橋社長が事業を承継した。
「事業再構築補助金の申請では、先代社長と相談しながら事業計画を作成しました。自社の現状について分析し、将来像について考える絶好の機会となりました。事業承継のタイミングで、このような経験できたことは、大きな財産になりました。(石橋社長)」
今回導入した設備は、24時間・無人運転も可能なシステムで、複雑かつ高精度の製品を低コストで生産できる。自社の強みである熟練工が汎用機で試作品をつくり、この設備を使って量産化することも可能だ。
「いままでは取引先からの発注を待つ『受け身の営業』でした。今後は、試作開発段階から製品づくりに携わる『提案型の営業』にも力を入れていきたいと思います(石橋社長)」
提案型の営業を通じて熟練工の技術力をさらに磨き、高度化する取引先のニーズに対応していきたいと石橋社長は語る。
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