事業承継した精米店が、補助金活用で生産性向上・売上拡大 【支援機関とともに 商工会議所編】
持続化補助金(小規模企業者持続化補助金)は、小規模企業や個人事業者の「販路開拓」等の取り組みを支援する補助金です。
事業者が策定した事業計画等に基づいて審査し、採択された事業者に補助金が支給されます。申請窓口は、事業者の管轄の商工会議所・商工会になっています。
今回の「支援機関とともに」では、精米店の経営を引き継いだ夫妻が、商工会議所の支援を受けながら、「持続化補助金」と「事業承継・引継ぎ補助金」という二つの補助金を活用し、設備投資により生産性向上を果たした事例を紹介します。また補助金の申請のために、きちんとした事業計画書を作成したことで、経営の引継ぎが円滑にすすみ、事業承継後の売上拡大につながったそうです。
その際の事業計画書を見せていただきながら、作成のポイント等をうかがいます。
申請補助金 |
平成30年度第2次補正小規模事業者持続化補助金 |
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事業計画名 |
出水初!無農薬米のIT販路拡大と色彩選別機による生産性の向上 |
支援機関 |
出水商工会議所(鹿児島県出水市本町7-16) |
支援企業 | 田上商店 |
企業概要 | 精米・農薬・肥料・灯油等の販売 |
所在地 | 鹿児島県出水市西出水町1627 |
URL | https://www.facebook.com/tanoue.riceshop/ |
事業承継に向けて、事業計画書を作成
田上商店は、昭和24年創業の精米店である。近隣の精米店のなかには、後継者不足に悩む事業者も多いが、令和2年1月、30代の木村夫妻が経営を引き継いだ。
「妻の祖母から事業承継しました。現在は、妻が店主として実務を行い、私が財務などを担当しています(木村氏)」
畜産会社で経理を担当していた木村拓哉氏は、事業承継の準備のために、2019年8月、出水商工会議所の「創業セミナー」を受講した。これから夫婦二人三脚で店舗を運営するために、経営の基本知識を身につけようと考えたからだ。
「決算書を見ると売上は右肩下がり。このままでは近い将来、経営が行きづまると思って、商工会議所のセミナーに参加しました。セミナーでは、事業計画の作成方法などを学ぶことができました(木村氏)」
同店は、70年以上にわたって、地域の人々や学校や飲食店等に米を販売してきた。しかし近年は、設備の老朽化により顧客の注文に応えられないケースが増えてきた。ボトルネックになっていたのが、玄米の異物を取り除く工程である。同店の色彩選別機は1時間あたり30㎏の選別が限界だったため、この生産能力を超える受注があった場合は、注文を断らなければならなかったのだ。
設備の老朽化について、出水商工会議所の中小企業相談所、田上拓郎所長に相談すると、持続化補助金の活用をすすめられた。
「最新の色彩選別機の導入するために、持続化補助金を活用しました。補助金の申請には事業計画が必要ですが、木村さんはセミナーに参加し、事業計画の作成にとりかかっていたところだったので、とても良い機会だと思いました(田上所長)」
補助金を活用した設備導入で生産性向上
事業計画書の作成にあたって、田上所長は商品や取引先の「ABC分析」を行うことをアドバイスした。
ABC分析とは、販売数・売上高・利益率などを多い順にA・B・Cのグループ分けをして、優先度を決める分析手法である。
「売上高」「利益率」を評価軸にABC分析を行うと、同店の卸のターゲットとしては弁当屋・老人ホーム、小売の商品としては無農薬・小ロット商品が有望だということが分かった。
「経営資源が限られている小規模事業者の場合はとくに、ABC分析で重点ターゲット・重点商品を設定し、このことを踏まえて販路開拓をすすめていくことが大切だと思います(田上所長)」
最新の色彩選別機を導入すれば生産能力が高まるが、売上拡大のためには増えた分の商品を販売しなくてはならない。事業計画には、重点ターゲットを踏まえた新規顧客獲得のために、イベント販売、老人ホームへのイベント提案、SNSを活用した情報発信、チラシ広告等を組み合わせた販促計画を記載した。
「事業計画づくりは初めてでしたが、創業セミナーで基本を学んでいたおかげで、スムーズにすすめることができたと思います。週1回ほど田上所長に添削してもらい、1ヶ月間ほどで完成しました(木村氏)」
2019年7月、事業計画は持続化補助金に採択され、補助金を活用し、以前の6倍の選別能力をもつ色彩選別機を導入することができた。
事業承継後、売上高・利益率とも大幅に向上
持続化補助金の採択後、同社は精米の品質・生産性を高めるために「事業承継・引継ぎ補助金(経営者交代型)」を活用して、「籾摺機および精米機」を導入した。この補助金も、申請にあたって事業計画書が必要になる。
「事業承継・引継ぎ補助金は、より精緻な事業計画書が求められますが、商工会議所では申請書類についてのアドバイスをしたくらいで、木村さんがほぼ独力で事業計画書を作成しました(田上所長)」
「事業承継・引継ぎ補助金では、5年・10年という長期的な事業計画を立てなくてはなりません。また、販売見込についても詳細な根拠が求められます。しかし、持続化補助金の事業計画を作成していたので、その延長線上で考えることができました(木村氏)」
持続化補助金、事業承継・引継ぎ補助金という2つの補助金を活用して設備投資を行い、生産能力を高めたことは、経営を引き継ぐにあたって大きな力となった。しかし、事業計画を策定したことは、補助金以上の効果があったと木村氏は振り返る。
「事業計画の作成にあたっては、商工会議所からアドバイスを受けながら、ABC分析で『売れ筋』を見つけ、SWOT分析で事業の『強み・弱み』を把握し、将来の具体的な目標、ビジョンを描くことができました。たとえ補助金が採択されなかったとしても、大きな意味があったと思います(木村氏)」
令和2年1月、木村夫妻は事業を承継。コロナ禍もあったが、出水市のブランド米「ひのひかり」を主力商品に、ふるさと納税のネット販売などで売上を伸ばすことができた。また日本公庫のビジネスマッチングサイトを通じて首都圏の有名中華料理店と取引するなど、順調に販路を拡大している。「事業承継前と比べると売上は1.5倍になった」と言う。
「木村さんが試行錯誤しながら事業計画を作成したことが、いまの売上増につながったのだと思います。これからも事業者と向きあい、共に成長できるような支援をしていきます(田上所長)」
木村夫妻のような経営に意欲的な後継者を支援していくことで、地域全体の活性化につなげていきたいと田上所長は語る。
▲左から 籾摺り機、選別機、精米機
2023年10月31日
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