有機肥料メーカーが、生産プロセスの改善に補助金を活用 【支援機関とともに 民間支援機関編】
ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)は、中小企業・小規模事業者等が取り組む「革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセス」の改善を行うための設備投資等を支援する補助金です。
今回の「支援機関とともに」では、家畜排せつ物から有機肥料を製造するメーカーが、ボトルネックだった「高温発酵工程」に新設備を導入し、生産プロセスを改善することで、生産性向上と製品品質向上を実現した事例を紹介します。
事業計画書では、生産工程の新旧比較表を作成することで、設備の導入効果について具体的に記載しています。
今回は、その事業計画書を見せていただきながら、作成のポイント等をうかがいます。
申請補助金 |
令和元年度補正・令和二年度補正 ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 |
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事業計画名 |
地元畜産業者の家畜排せつ物による高品質有機肥料の製造ライン構築 |
支援機関 |
公益財団法人 本庄早稲田国際リサーチパーク |
支援企業 | 有限会社エー・アイ |
企業概要 | 有機堆肥の製造販売 |
所在地 | 埼玉県深谷市櫛挽43番地3 |
URL | https://agriculture-innovation.com/ |
家畜の排せつ物から、地球環境にやさしい有機肥料を製造
有限会社エー・アイは、埼玉県深谷市の有機肥料メーカーだ。深谷市の周辺は、養鶏・養豚・牧畜などの畜産業が盛んな地域である。同社は地域の畜産農家から家畜排せつ物を買い取り、これを原料として有機肥料を製造し、JAやホームセンター等に販売してきた。
実は近年、有機肥料の需要は増加傾向にある。その理由の一つに農林水産省が進めている「みどりの食料システム戦略」があり、戦略目標として、2050年までに有機農業の農地を25%に拡大すること、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%に削減することなどが掲げられている。
このような政策目標を背景に有機肥料の需要は高まっているが、同社は増えつつあるニーズに対応できない状況が続いていた。
「ボトルネックとなっていたのが、『高温発酵工程』です。家畜排せつ物をかき混ぜて高温で発酵させる工程ですが、設備の能力が不足しているため、肥料の生産量を増やすことができませんでした(齋藤社長)」
課題解決のために、齋藤社長は取引先金融機関から公益財団法人本庄早稲田国際リサーチパーク(略称・本庄財団)を紹介され、そこで、地域振興支援部の清水支援員から「ものづくり補助金」を活用した設備導入のアドバイスを受けた。
「当財団は、埼玉県本庄市を拠点に新技術・新産業の創出による地域の産業育成・研修事業を通した人材育成・研究教育などの支援活動をしています。認定支援機関として、地域企業の経営相談等も行っています。同社から相談を受け、ボトルネック解決のために、ものづくり補助金を活用した設備投資を提案しました(清水支援員)」
同社では、平成28年にものづくり補助金に挑戦したことがあったが、不採択となっていた。齋藤社長にとって、ものづくり補助金のハードルは高い補助金というイメージがあった。そこで今回は、清水支援員の支援を受けながら、ものづくり補助金の事業計画を作成することとした。
生産性向上と品質向上の根拠を、事業計画に記載
同社の有機肥料の生産工程は、①原料(家畜排せつ物)受入→②ヤードへの投入→③高温発酵工程→④低温発酵工程→⑤包装工程→⑥パレット段積みという流れである。このうち、生産能力のボトルネックとなっていたのが、③高温発酵工程だ。だが、この工程こそが、同社の製品の強みにつながる最重要工程でもある。
有機肥料の製造にあたっては、発酵温度・酸素(空気)・水分量を管理しながら、微生物の力で家畜排せつ物を発酵させる必要がある。同社は「スクープ式撹拌機」により、約80度の高温で発酵させることで、質の高い有機肥料を製造している。
「高温発酵で病原菌・雑草の種子などを死滅させることで、種苗の生育にとって良い環境となり、発芽率や定着が飛躍的に高まります。また有機肥料の悪臭も抑えることができるので、ご家庭でも使いやすい製品になっています(齋藤社長)」
同社の高温発酵の有機肥料は、JAやホームセンターでも人気商品になっていると齋藤社長は言う。しかし、同社のスクープ式撹拌機は生産能力に限界があった。そこで、ものづくり補助金を活用して、新たなスクープ式撹拌機を導入しようと考えたのである。
「勘違いされる事業者も多いのですが、ものづくり補助金は『既存設備が老朽化したから買い替えたい』では要件を満たしません。新たな設備導入により、どれほど生産性が向上するのか、労働環境が改善するのか、また品質向上や新製品の開発につながるのかということを具体的に示していく必要があります(清水支援員)」
このことを踏まえて、同社は新旧の生産工程の比較表を作成。生産性向上のボトルネックが「高温発酵工程」にあり、新たなスクープ式撹拌機を導入することで、年間処理量が20万袋(2,000t)から30万袋(3,000t)と1.5倍になること工程表で示した。
また撹拌機に温度センサーを取り付け、撹拌と同時に発酵温度をリアルタイムで監視できるシステムを導入し、見える化による高温発酵の温度水準の管理を行うことが可能となり、病原菌を確実に死滅させることで、製品の品質向上を図ることとした。
この新たなスクープ式撹拌機については、自社の仕様にあったものとするため、関東近郊の工作機械メーカーに開発を依頼することとした。
地域の「困りごと」を解決できる企業をめざして
令和3年10月、同社の事業計画はものづくり補助金に採択された。令和4年10月から、新たなスクープ式撹拌機が稼働している。
「前回の不採択になった事業計画では、自社製品の質の高さをアピールすることばかり考えていました。今回は、清水さんのアドバイスを受けながら、新設備による生産性向上や品質向上について、説得力のあるストーリーで記載できたことが、採択につながったのだと思います(齋藤社長)」
ものづくり補助金の採択後、本庄財団の支援を受けながら、農林水産省の補助金を活用して、包装工程の設備を導入。ものづくり補助金の事業計画を作成したことで、補助金の申請がスムーズに進んだと齋藤社長は言う。
「このような補助金の原資は、私たちの税金です。だからこそ、本庄財団では補助金申請だけでなく、その後の事業のフォローもきちんとサポートしています。企業を活性化させることで、地域社会の課題の解決につなげていくことも、私たちの使命だと考えています(清水支援員)」
「当社は、地域の困りごとを解決できる企業になりたいと思います。畜産農家からは、飼育頭数を増やしたいが糞尿処理ができなくて、増やせないという声を聞きます。当社が処理能力・生産能力を高めることで、地域の畜産業の発展につながればこれ以上の喜びはありません(齋藤社長)」
畜産業の発展はもちろん、2050年カーボンニュートラルを見すえた「みどりの食料システム戦略」においても有機農法の拡大が急務となっており、有機肥料メーカーである同社の果たすべき役割は大きい。
現在、同社は有機肥料の原料として、「馬ふん」に注目。発酵温度が高く、繊維質が多い馬ふんは、土を柔らかくする「土地改良剤」としての効果も期待できるとのことだ。
今後は、新設備導入により拡大した生産能力を活かしながら、様々な肥料製品を開発していきたいと齋藤社長は言う。
2023年12月15日
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