ロカベン活用の現場 ロカベンで発見したセールスポイントで販路拡大
ローカルベンチマーク(ロカベン)は、「企業の健康診断ツール」です。「財務(財務情報)」「非財務情報」の両面から、経営の健康状態を分析・診断します。
事業者と支援者の「対話ツール」としてロカベンを活用することで、経営課題の整理や強みの発見、経営改善につなげることができます。
今回は、工場営繕を専門とする建設会社が、ロカベンで「強み」を見える化し、セールスポイントとしてアピールすることで、新規取引先を増やした事例をご紹介します。
▲尼崎信用金庫
▲神田組
支援者 |
尼崎信用金庫 |
---|---|
支援企業 |
株式会社神田組 |
企業概要 | 建設業 |
所在地 | 兵庫県伊丹市昆陽南5丁目8-7 |
URL | https://www.kandagumi.jp/ |
販路開拓・売上拡大を目的に、ロカベンで「強み」を見える化
神田組は、「工場営繕(工場・倉庫・事務所などの改修工事)」を専門とする兵庫県伊丹市の建設会社である。
同社は、2001年の創業から右肩上がりで成長を続けてきた。しかし、2020年からのコロナ禍で売上が半減。神田智博社長にとって初めての経験だった。
「リモートワークの影響で、主要取引先の大手金属メーカーからの受注が激減しました。仕事がなくなり、ぽっかりと時間が空いた時に、あましん(尼崎信用金庫)からロカベン(ローカルベンチマーク)の活用を提案されました(神田社長)」
背景には、販路開拓が思うように進まないことがあった。尼崎信用金庫の支援を受けて、販路開拓コーディネーターに業務内容をプレゼンしたものの反応は思わしくなく、受注につなげることはできなかった。同金庫の伊丹西支店長は、こう振り返る。
「販路開拓コーディネーターからは、『神田組は何が得意なのか、わからない』との指摘を受けました。ロカベンで、会社の強みが見つかればと考えました(伊丹西支店長)」
ロカベンは対話をしながら、受注、仕入れ、生産、販売等といった業務フロー(業種によって異なる)により、業務段階ごとに状況を確認・整理することで、網羅的に強みを見つけ出すことができることが特徴だ。
ロカベンの作成は、神田社長、朝山貴弘部長、専門家(中小企業診断士)、伊丹西支店長などが中心となり進められた。対話しながら業務ごとに「差別化ポイント」を整理していくと、「いままで普通だと思っていたことが、強みであることに気づいた」と、神田社長は言う。
幅広い業種の小規模営繕にワンストップで対応できる建設会社
神田組の業務は、調査・見積・施工の3つに大別できる。ロカベンで業務ごとに差別化ポイントを検討していくと、「100万円以下の工事対応(見積依頼)」「相談のしやすさ(見積依頼)」「迅速な初期対応(調査)」「幅広い業種の工場営繕(施工)」などが挙げられた。なかでも「幅広い業種の工場営繕」は同業他社にはあまりないものだった。
創業から約20年にわたって、同社は金属・食品・飲料・化学・機械など様々な業種を経験してきたが、工場営繕には企業・業種によってルールが異なる。たとえば、大手金属メーカーの大規模工場は操業を止めないことが絶対条件。食品工場のクリーンルームは工事による臭い・汚れの発生は厳禁だ。化学プラントならば火気を使うことは許されない。くわえて、それぞれの企業で独自のルールを持っていた。このような事情により、工場営繕を行う建設会社は、特定企業・専門業種以外が施工を請け負うことはあまりない。
「もちろん大手ゼネコンなら、様々な業種の工場営繕に対応できます。しかし、中小建設会社が主となる100万円以下の営繕についてはきめ細かな対応は難しいと思います。(神田社長)」
販路開拓のために、2021年9月、同社は(一社)兵庫県信用金庫協会の「川上・川下ビジネスネットワーク事業(ビジネスマッチング事業)」に参加。ロカベンの差別化ポイント・強み、「①様々な業種・企業の ②100万円以下の工場営繕に ③ワンストップで ④細やかに対応できる建設会社」をセールスポイントに、プレゼンを行うと、以前とは相手の反応が異なり、興味をもってもらうことができた。
また、2022年7月のものづくり企業の展示会「あまがさき産業フェア」にも出展。ここでも、多くの企業から工場営繕の相談を受けることができた。
▲集中支援先プレゼン会
▲あまがさき産業フェア出展
ロカベンの成果を「デザイン経営」に活用し、社内外への浸透を図る
ロカベンで他社との差別化ポイント、強みが明確になったことで、商談相手に対して自信をもってセールスできるようになった。また、ホームページやチラシも、強み(セールスポイント)を念頭に置きながら制作することで、問い合わせも増加した。
「商談相手の約75%から見積依頼していただき、50%が受注に結びつきました。新規取引先は、30社以上増えています(神田社長)」
販路拡大だけでなく、採用にもロカベンは好影響を与えている。建設業界は人材確保が難しい状況が続いているが、同社はこの1年間に20代~30代の若手を中心に5人の採用に成功した。「ハローワークの求人票や自社の採用サイトで、ロカベンで見える化した強み・業務内容・経営方針等をわかりやすく伝えたことが採用につながったのではないか」と、朝山部長は語る。
いま同社は、ロカベンの成果を全社員に浸透させるために、「デザイン経営」に取り組んでいる。デザイン経営とは、デザインの力を企業のブランディングやイノベーションに活かしていく経営手法である。
「ロカベンで、当社が『顧客に提供すべき価値』を明確にすることができました。これを社員全員で共有するために、また社外に発信していくために、『デザイン経営』は有効だと考えています(朝山部長)」
「ロカベンづくり、当金庫も神田組の強み、経営方針を深く理解できました。このことを、ビジネスマッチングをはじめ、様々な経営支援につなげていきたいと考えています(伊丹西支店長)」
ロカベンの成果を企業のさらなる成長につなげるために、今後とも様々な経営課題に対する支援を続けていきたいと、言う。
▲デザイン経営リーフレット
2024年3月26日
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