ロカベン活用の現場 タクシー会社が、ESG経営・SDGs宣言にロカベンを活用
ローカルベンチマーク(ロカベン)は、「企業の健康診断ツール」です。「財務(財務情報)」「非財務情報」の両面から、経営の健康状態を分析・診断します。
事業者と支援者の「対話ツール」としてロカベンを活用することで、経営課題の整理や強みの発見、経営改善につなげることができます。
今回は、支援者である地域の信用金庫がロカベンを活用して、取引先のESG経営の推進やSDGsにつながる活動を発掘し、SDGs宣言を支援している事例をご紹介します。
▲尼崎信用金庫
支援者 |
尼崎信用金庫 |
---|---|
支援企業 |
株式会社フクユ |
企業概要 | タクシー事業、コミュニティバス事業、整備事業など |
所在地 | 兵庫県伊丹市池尻7丁目181番地 |
URL | https://fukuyu.jp/ |
SDGs・ESG経営の視点を入れた「ロカベンシート」
尼崎信用金庫は、兵庫県尼崎市に本店をおき、阪神南エリアに店舗を展開する金融機関である。取引先には下町のものづくり企業をはじめとして、中小企業・小規模事業者も多い。
同金庫は、取引先の事業性評価ツールとして「ローカルベンチマーク(ロカベン)」を活用している。そのきっかけは、新型コロナの感染拡大だった。厳しい経営環境に直面している取引先を支援していくためには、職員一人ひとりのソリューションスキルを高めることが欠かせないと考えた同金庫は、職員を対象としたロカベン研修を実施し、本格的なロカベン活用を開始した。2022年4月から2023年12月末現在までに、700社以上のロカベンを作成し、取引先の経営課題の把握・ソリューション提案につなげている。
同金庫のロカベンシートは、オリジナル要素がプラスされているのが特徴だ。一つは、業務フローに「業務上内在するリスク・機会」と「関連するSDGs目標・ESG課題等」が加わっていること。もう一つは、「4つの視点(経営・事業・環境・内部管理体制)」に「サスティナビリティ・ESG経営の推進」を加えて、事業を総括することである。
これは、環境(Environment)・社会(Society)・ガバナンス(Governance)の3要素を重視した持続可能な経営、「ESG経営」の支援に力を入れているためだ。同金庫では、地域の環境保全をすすめる「あましん緑のプロジェクト」、環境技術の発展に貢献する企業を支援する「あましんグリーンプレミアム」などの活動に取り組んでおり、「SDGs」や「ESG経営」への関心が高い。
▲尼崎21世紀の森(空撮)
▲植樹の様子
▲あまちゃんしんちゃんとはばタン
「人にやさしい」サービスが、差別化のポイントだった。
株式会社フクユは、兵庫県伊丹市のタクシー会社である。創業は1983年。「阪神福祉観光輸送」の社名で、介護が必要な高齢者・障がい者も安心して利用できるタクシー会社として創設された。「福祉観光輸送」を縮めた「フクユ」の愛称で地域の人たちから親しまれ、1999年には「フクユ」を社名としている。
尼崎信用金庫からの提案で、松下誠吾社長がロカベンを作成したのは、コロナ禍を機に「経営を見える化」したいという思いからだった。
「いままでは漠然と日常業務をこなしていましたが、コロナ禍で売上が落ち込むなかで、課題や強みを明確にして、すっきりした気持ちで経営したいと思ったのです(松下社長)」
同社の強みは「配車率80%」という配車率の高さだ。「流しの客」が少ないため、計画的に配車できるため、乗務員は効率的に働くことができる。松下社長は当初、「最新の配車システムを導入していること」が強みで、それが配車率の高さにつながっていると考えた。だが、現場の社員とともにロカベンを作成し、業務フローの①配車・②乗車・③実車(運転中)・④降車・⑤日常管理の「差別化ポイント」を書き出していくと、配車率が高い原因は、システムではないことに気づいたと言う。
「社長や社員の方とロカベンを通じて対話していくなかで、乗降時にお客様が手や足を挟まないようにケアしたり、降車時にお年寄りの荷物をもってあげたり、フクユさんらしいエピソードがたくさん出てきました。それこそが、『差別化ポイント』だと思いました(昆陽里支店長)」
尼崎信用金庫昆陽里支店の支店長は、このように振り返る。福祉輸送からスタートした同社は、創業から「人にやさしい」という基本理念を掲げてきた。それが、乗務員のマニュアルを超えた細やかなサービスにつながり、お客様から「選ばれる理由」になっていたのだと言う。
ロカベンでは、「交通弱者の支援」という使命を再確認
同社の差別化ポイント・強みの源泉には、創業からの理念とそれに基づくサービスがあり、それがお客様からの信頼・ブランド力につながっていた。
「当社の原点に福祉輸送があります。交通弱者の支援は創業からの重要な使命であり、ロカベンを通じて、このことを再確認することができたのは大きな意味がありました(松下社長)」
同社は高齢者など交通弱者のための地域バス「ランランバス」の運行を担うなど、地域と密着した事業を展開してきた。
ロカベン作成後は、災害時の支援協力として、伊丹市・宝塚市と大規模災害応援協定を締結した他、強みである「24時間365日営業」と「介護タクシーノウハウ」を活かして、陣痛時に妊婦さんを安全に病院までお届けする「陣痛タクシー」のサービスを開始した。
「このような取組みは、ロカベンシートの『サスティナビリティ・ESG経営の推進』にも記載しました(昆陽里支店長)」
今後も、同金庫として、環境・社会・ガバナンスを重視したESG経営の実現に向けた支援を続けていきたいという。
▲ランランバス
▲大規模災害応援協定
理念と強みを落とし込んだ「SDGs宣言」を社内外に発信
尼崎信用金庫のロカベンシートにはSDGs・ESG経営の項目があるが、ロカベンの作成前まで、松下社長はSDGsについて考えたことがなかったと言う。
「タクシー業界は排気ガスをまき散らしますし、SDGsは縁遠いものだと感じていました(松下社長)」
しかし、ロカベンを通じて、業務の差別化ポイントを話しあううちに、人にやさしいサービス、働き方改革、女性社員の活用など、SDGsにつながる活動が見えてきた。
「対話のなかで、『社長、それもSDGsじゃないですか』と言うことがたくさんありました。そこで、SDGsの17の目標につながる取組を明確にし、さらに進めていくことを提案しました(昆陽里支店長)」
2023年3月、同社はSDGs宣言を実施し、「地域の皆様への快適な手段の提供」「運転者の安全に対する向上」「やりがいのある職場環境の整備」「女性運転手の活動推進」を掲げた。そして、このような取組により「ひょうご信用創生アワード2023(兵庫県地域支援金融会議)」においてSDGs達成に資する優れた取組として「選考委員特別賞」を受賞した。
「「タクシー業界は慢性的な人材不足ですが、SDGs宣言をしてから応募が増えてきました。女性からの応募も目立ちます(松下社長)」
ロカベンで明確になった理念と強みをSDGs宣言の形で内外に発信することで、人材確保や従業員のモチベーション向上につながった。これが、ロカベンの効果ではないかと、松下社長は語る。
▲ひょうご信用創生アワード2023の受賞風景
2024年3月27日
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