ロカベン活用の現場 顧客との絆を深めるため、「お香のワークショップ」を開催
ローカルベンチマーク(ロカベン)は、「財務(財務情報)」「非財務情報」の両面から、経営の健康状態を分析・診断する「企業の健康診断ツール」です。
事業者と支援者の「対話ツール」としてロカベンを活用することで、経営課題の整理や強みの発見、経営改善につなげることができます。
今回は、葬祭用品の卸事業等を営む企業の後継者が、将来の事業承継のため、ロカベンを活用して経営環境や課題について整理。そのなかで、得意先とのコミュニケーション不足という課題に気づき、得意先や地域との関係強化のために、「お香のワークショップ」をスタートした事例についてご紹介します。
支援者 |
群馬県よろず支援拠点 |
---|---|
支援企業 |
株式会社ダイドウ |
企業概要 | 葬祭用品卸事業、葬祭サービス業 |
所在地 | 群馬県前橋市三俣町3-12-2 |
URL | https://daidou.ltd/ |
事業承継を視野に、ロカベンで自社の課題を整理
株式会社ダイドウは、群馬県で葬祭用品卸事業、葬祭事業を営む企業である。創業は1981年で、創業者の社長は80歳を超えており、事業承継が課題となっている。
後継予定者は社長の長女である狩野理絵取締役。20年前に入社して会社の事務や経理を任されてきたが、事業承継にあたって、国の公的な相談窓口である「群馬県事業承継・引継ぎ支援センター」に相談した。その際、センターから紹介され、国が設置した経営相談所「群馬県よろず支援拠点」が実施する「後継者育成プログラム」に参加することになった。
「長年にわたり会社の事務・経理を任されてきましたが、決算書の見方もよく分かりません。
経営に関する知識が不足していて、将来の事業承継への不安を感じていました。(狩野取締役)」
よろず支援拠点の江原伸広コーディネーターは、プログラムのスタートにあたり、「事業計画策定シート」を使って、同社の業務や課題等を狩野氏とともに整理した。この事業計画策定シートは、江原氏がロカベンをアレンジして作成したオリジナルツールだ。
「ロカベンでは、財務分析・非財務分析がとてもコンパクトにまとめられています。
会社の経営を俯瞰するのに優れたツールです。狩野さんと一緒に財務分析をしながら、決算書の数字を一つ一つ説明し、非財務分析で課題等について整理していきました(江原コーディネーター)」
ロカベンを通じた対話を重ねるなかで、いくつかの課題が見えてきた。
葬儀市場では祭壇・返礼品の簡素化や葬儀の規模縮小が進み、一件当たりの単価が大幅に減少していること。得意先の葬祭グループへの仏具の卸販売が売上の大部分を占めていること。従業員の高齢化などにより、得意先への訪問回数が少ないことなどである。
また強みとして、在庫が豊富で当日配送が可能であること、地域の葬儀に必要な祭壇・仏具をワンストップで提供できることなどを再確認した。
「決算書の意味が解るようになり、業務の流れも、課題もクリアになりました。
経営への理解が深まることで、将来の事業承継に対する不安が和らぎました(狩野取締役)」
▲後継者育成プログラム事業計画策定シート
お香のワークショップを通じて、顧客との関係強化を図る
同社の売上の柱は、地域の葬祭グループや葬儀店への祭壇・ひつぎ等の仏具の卸販売(BtoB)であるが、赤城店(群馬県渋川市)では地域の一般客を対象とした葬儀サービスの提供や仏具販売(BtoC)も行っている。
葬儀サービスは、営業活動が難しい業種である。ニーズは突発的に発生するものであり、こちらから積極的に営業するわけにはいかない。日頃から顧客とのコミュニケーションを大切にしつつ、親密な関係を築いていくことが肝要である。これは、同社も同社の得意先である葬儀店も同様だ。
「得意先も、人形供養祭などを通じて、お客様とのコミュニケーションに力を入れています。当社としてそのお手伝いができれば、得意先に喜んでいただけるのではないかと考えました。
そのなかで思いついたのが、『お香のワークショップ』です。(狩野取締役)」
お香は仏への供養であり、葬祭になくてはならないものだ。また和のアロマテラピーとして、リラックスやストレス軽減の効果もある。お香のワークショップならば、若い女性からシニアまで、幅広い方に興味をもってもらえると考えた。
ワークショップ開催のため、狩野氏は約1年かけてお香の調合技術について学び、お香のスペシャリスト「香司」の資格を取得。
そして2023年12月から同社の赤城店を会場に、自身が講師となってお香のワークショップをスタートさせた。
ワークショップでは、沈香や白檀等の香木や天然の草根木皮から、参加者の好みにあわせて、匂い袋、塗香、練香、線香などのお香をつくっていく。その模様をInstagramで発信すると、20代から70代の女性を中心に、多くの参加者が集まるようになった。
またInstagramを通じて、地域の寺院から「檀家などを対象に開催して欲しい」とのオファーがあり、ワークショップを通じたコミュニケーションの輪が広がっていると言う。
「葬儀サービスにとって、地域の方との絆づくりがとても重要です。今後は、得意先の葬祭グループや葬祭店にも、お香のワークショップを提案し、得意先との関係強化につなげていきたいと考えています。(狩野取締役)」
ロカベン作成はゴールではなく、経営改善のスタート
「狩野さんは、ロカベンで得意先とのコミュニケーション不足という課題が見つかると、すぐに「香司」の資格をとり、ワークショップの開催まで一気に取り組みました。その行動力は、経営者にとって最も重要な資質だと思います。(江原コーディネーター)」
なかにはロカベンを作成することで終わってしまう事業者もいるが、ロカベン作成はゴールではなく、あくまで経営改善のスタートであることを忘れないでほしいと、江原氏は言う。
もちろんワークショップで全ての課題が解決するわけではなく、まだまだ課題は残されている。
「いま2027年を目途にした事業承継計画を進めているところです。従業員の高齢化、配送サービスの人材確保、ECサイトでの売上拡大など、課題は山積しています。
ロカベンを通じて、これらの課題が明確になり、経営全体への理解が深まったことは、大きな収穫です(狩野取締役)」
ロカベンは、支援者・専門家の情報共有にも役立つと、群馬県よろず支援拠点の瀬古裕美チーフコーディネーターは言う。
「後継者育成プログラムでは、後継者一人ひとりの悩みや経営課題にあわせて、様々な専門家がチームでサポートします。ロカベンにより、専門家が事業者の情報を共有することができるため、スムーズな支援につながります。(瀬古チーフコーディネーター)」
今回のプログラムでも、人事戦略・雇用に関することは社労士が、ECサイトに関することはITコーディネーターが担当した。
これからも群馬県よろず支援拠点は、中小企業・小規模事業者に寄り添いながら、様々な専門家が、経営課題の解決に向けた支援を続けていきたいと瀬古氏は語る。
2024年11月8日
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