ロカベン活用の現場 ロカベンを通じて、会社の強み「知的資産」を明確化
ローカルベンチマーク(ロカベン)は、「財務(財務情報)」「非財務情報」の両面から、経営の健康状態を分析・診断する「企業の健康診断ツール」です。
事業者と支援者の「対話ツール」としてロカベンを活用することで、経営課題の整理や強みの発見、経営改善につなげることができます。
今回は、プラントの炉材を補強する耐熱金具等を製造販売する企業が、ロカベンワークショップを通じて、会社の強みとなる目に見えない資産「知的資産」を見つけ、経営に活用している事例をご紹介します。
支援者 |
千葉県中小企業診断士協会 知的資産経営研究会 |
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支援企業 |
有限会社双葉テックス |
企業概要 | 金属製品製造販売業(プラント向け炉材用耐熱支持金具) |
所在地 | 千葉県船橋市栄町2-8-11 |
URL | https://futaba2828.jp/ |
石油プラントの耐熱金具等を製造販売
有限会社双葉テックスは、織金網、パンチングメタル、エキスパンドメタル、線材加工品、ステンレス加工品などの金属加工品の製造販売を行う企業である。同社の主力製品の一つが、「ヘックスメッシュ」と呼ばれる六角形の網目状のステンレス金具。石油プラント・製鉄所・焼却炉などの炉材の補強に使われる耐熱金具であり、国内では数社しか製造していない製品だ。
江上健治社長は、義父である先代社長の後継者候補として入社。営業・現場の業務に携わってきたが、2021年に先代社長が急逝したことで、社長に就任した。
「突然のことで、引き継ぎもありません。金融機関と話すなかで、はじめて経営状態を知りました(江上社長)」
このままでは先細りになると感じて、受け身の経営ではなく「攻めの経営」に転じた。積極的な新規開拓をすすめ、半導体分野のニーズを開拓。新たな事業として、ステンレス端材を活かしたキャンプ用品の開発販売にも挑戦した。
また、経営者としての知識・スキルを養うために、千葉県中小企業家同友会の活動にも参加。そのなかで、中小企業診断士の細野祐一氏から「ローカルベンチマーク」の話を聞いた。
「千葉県中小企業診断士協会の知的資産経営研究会では、千葉県中小企業家同友会と連携して、『ロカベンワークショップ』を開催しています。ワークショップでは、中小企業診断士のチームが、ロカベンを対話ツールとして活用しながら、経営者にヒアリングして、現状を整理し、強みを見つけ、今後の経営に活かしていくことを目的としています(細野診断士)」
「ロカベンと聞いても、はじめは何のことか分からなかった」と江上社長は振り返るが、事業の先行きに不透明感を感じていたこともあり、ワークショップに参加することにしたと言う。
▲炉材支持用耐熱金具「ヘックスメッシュ」
▲ステンレス端材で作った「キャンプ用鉄板」
「スピード」が最大の強みであることに改めて気づいた
知的資産経営研究会は、組織や人材、ネットワークなどの目に見えない資産「知的資産」を活かした企業経営をサポートしている。この知的資産を見つけるツールとして、ロカベンは最適だと、同研究会の中小企業診断士の若林豊氏は言う
「ロカベンは、『業務プロセス』・『商流』・『4つの視点』という観点から、企業の強みである知的資産を見つけます。ロカベンを通じて対話するなかで、経営者がいままでに当たり前に行っていることが知的資産だと気づいたり、自社を見直すきっかけになったりするのです(若林診断士)」
ロカベンワークショップは、同研究会の中小企業診断士の星野盛雄氏がリーダーとなり、小山雄飛氏、長島和秀氏、山下理夫氏の計4人の中小企業診断士がチームを組み、江上社長にヒアリングする形で2日間にわたり実施された。
1日目のワークショップは、商流と業務フローをまとめた。
業務フローでは、業務を「営業」「見積り・受注」「仕入」「製造(外注含む)」「検品・納品」に分け、それぞれの業務の内容と差別化ポイントをヒアリングしていった。
このうち「見積り・受注」の差別化ポイントに「即日見積」があった。先代社長の時代から蓄積した様々なデータを原価計算に反映させる仕組みがあり、これが即日見積を可能にし、同社の強みである短納期を実現していた。
また「仕入」の差別化ポイントとしては、先代から受け継がれた技術力の高い外注先の存在があった。ただし、その外注先は高齢化・後継者不在といった課題を抱えており、今後の具体的な対応策は決まっていない状況であった。
「もちろん自社の強みについては分かっているつもりでしたが、ロカベンを通じて、『スピード』が最大の強みであることに改めて気づかされました。営業から見積、製造、配送まで、全てのプロセスのなかで、どうやってスピードを高め、短納期を実現し、他社と差別化していくか、という意識が強くなりました(江上社長)」
現在、取引先の担当者との連絡にLINEを活用するなど、様々な形でスピード・対応力を高めることに挑戦していると江上社長は言う。
▲ロカベンワークショップ
▲作成したロカベンシートの商流
▲作成したロカベンシートの業務フロー
知的資産が価値を提供する仕組みを「見える化」
2日目は、「経営者」「事業」「企業を取り巻く環境・関係者」「内部管理体制」という4つの視点から、企業の現状について整理。そして、ロカベンで明らかになった「知的資産」を体系化するために「現在価値ストーリー図」を作成した。この現在価値ストーリーについて、星野氏はこのように説明する。
「現在価値ストーリー図は、『現在の価値のストーリーを描く(ええとこSTEP®)/噴水サイクル®)』のフレームワークに基づいて作成したチャートです。ロカベンの商流・業務フロー・4つの視点で明らかになった知的資産がどのようにつながり、価値を提供していくかを『見える化』したものです(星野診断士)」
この現在価値ストーリー図により、自社の顧客への提供価値やビジネスの仕組みが明確になり、経営方針や経営戦略の策定に役立つのだと星野氏は言う。
「顧客に提供する価値が明確になったことで、『当社の製品が社会に欠かせないもの』と確信することができました。これが、経営理念や社員の使命感につながっています(江上社長)」
現在、顧客提供価値を念頭に置きながら、将来ビジョンの策定を進めている。
「短納期・小ロット生産・柔軟な対応力・高品質などを強みとしつつ、『社会、経済の重要インフラを支える』という使命を果たしていきたいと思います(江上社長)」
その武器となるのが、同社のユニークな製品「ヘックスメッシュ」。プラントの炉材に使われるほどの強靭な補強金具の特性を活かして、防災施設やインフラなどの新たな市場を開拓していきたいと、江上社長は語る。
▲作成したロカベンシートの4つの視点
▲ロカベンを基に作成した現在価値ストーリー図
2024年12月3日
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