テレワークの事例紹介「チューリッヒ保険会社」導入の鍵は?
チューリッヒ保険会社は、世界215以上の国と地域で事業を展開するチューリッヒ・インシュアランス・グループの日本での拠点。
1986年に開設され、自動車保険や傷害保険、医療保険の取り扱いなどを行ってきた。
同社は、新型コロナウイルスの感染症拡大による緊急事態宣言の発令を受け、2020年4月8日から全部門の業務のテレワーク化を進め、コールセンターを中心に在宅勤務率95%を実現した。コールセンターという厳格な情報管理が求められる業務で、どのようにテレワークを進めてきたのか。また、テレワーク化にあたってどのような課題があったのかについて、お話をうかがった。
東日本大震災をきっかけに、事業継続計画(BCP)としてスタート
「もともとはテレワーク自体を目的としたものではなく、事業継続計画の一環として進められました。2011年の東日本大震災の時、東京の停電により、東京のスタッフが大阪オフィスに出張して過密なスペースのなか業務にあたりました。災害時にも、場所にとらわれずにお客様に対応できるようにと考えたのが、はじまりです。
と武市氏は語る。
プロジェクトチームがスタートしたのは、2013年。「仮想デスクトップ」という技術を導入することで、在宅でも顧客情報などのセキュリティを担保できる環境を整えた。
仮想デスクトップとは、コンピューターのサーバー上でOSやアプリケーションを集約的に管理するシステムである。スタッフのパソコンには操作画面が映し出されるだけで、データは一切保存されないため、情報流出のリスクを抑えることができる。同社のプロジェクトチームは、2019年には風水害発生時などに、テレワークを試験的に導入。2020年からは、東京2020大会の開催期間中のテレワーク移行を想定し、準備を進めてきた。そんな折、新型コロナウイルスの感染拡大が社会問題として、深刻さを増してきたのである。
会議室を自宅に見立てて、テレワーク教育
2020年2月下旬から、新型コロナウイルスに対応するため、全部門のテレワーク化の準備を開始。そのために重視したのが、在宅環境の整備と、テレワーク教育である。まずは、スタッフ一人ひとりの在宅環境を調査し、使用する端末の確認を行い、必要に応じて環境整備のための費用を補助した。
「仮想デスクトップの利点は、WINDOWSでもMACでも、どんな端末環境でも対応できることです。仮想デスクトップを導入していたため、テレワークの環境整備は、スムーズに進めることができました。最大のハードルとなったのは、システムではなくスタッフのマインドセット。意識改革でした」
と大阪カスタマーセンターセンター長の内田氏。
テレワーク経験のないスタッフにとって、本当に在宅で仕事ができるか不安は大きかったと言う。同社は、社内会議室をスタッフの自宅に見立て、実際に自宅で使用する端末を持ち込み、プロジェクトメンバーがマンツーマンで研修を行った。スタッフの年齢層は20代~60代と幅広く、ITリテラシーについても様々だったため心配していたが、「やってみたら予想以上にスムーズにできた」と言う。この在宅環境の確認とテレワーク教育に約1ヶ月半をかけ、同社は4月8日から全面在宅化を実施した。
チャットと社内SNSで、コミュニーション不足を補う
全面在宅化を導入したことにより、スタッフからは、
「満員電車の苦痛から解放された」、
「新型コロナウイルスの感染リスクが軽減された」、
「家族とのふれあいの時間が増えた」
など、非常にポジティブな評価が得られた。
テレワークの可能性と、これからの課題
「テレワークの導入は、業務の可能性を広げてくれたと感じています」
コロナ終息後のテレワーク活用については現在検討中だが、テレワークという新しい働き方を導入することで、
育児・介護・配偶者の転居等によるスタッフの離職防止、
オフィスフロアの有効活用、
採用方法の多様化
など、企業のメリットは大きいと内田氏は言う。
また武市氏は、続けてこう語る。
「当社の基本理念は、『ケアの精神とイノベーションの発想』です。テレワークの推進は、もともと災害時のお客様のケアを念頭にスタートしました。それがいま、お客様だけでなく社員のケアというカタチでも活用できています」
テレワークを導入する理由が明確であり、スタッフと共有できること。それが企業理念と結びついていることが重要だと言う。災害時のお客様のケアだけでなく社員のケアを念頭においた優良な事例として同社の今後の取組みを注視したい。
チューリッヒ保険会社(4月24日・プレスリリース)
同社の全面在宅化は大きな反響を呼び、多くの企業から問い合わせが相次いだ。そこで、2020年4月24日、同社はコールセンターのシステム・運用についての情報を公開した。
テレワークの導入メリットは「災害時のお客様のケア」だけではなく、企業経営にとって多くのメリットがあります。
優秀な人材の確保
テレワークの導入により、多様な働き方が可能になります。これにより、採用ターゲットが広がり、優秀な人材の確保につながります。
また、従業員の配偶者転勤による離職、子育て・介護などによる離職を抑止することができ、採用コストの削減にも貢献します。
コスト削減
テレワークにより、オンライン会議などを増やすことで、旅費交通費が削減します。また在宅勤務により、オフィス空間を有効活用することができるため、オフィス賃料の削減にもつながります。
生産性の向上
従業員との打ち合わせ、取引先との商談などに、オンライン会議などを活用することで、通勤などの無駄な移動時間・会議時間が短縮でき、企業の生産性向上に貢献します。