コロナ禍に負けるな! 家庭で味わう駅弁のネット通販に挑戦【支援機関とともに 商工会編】
補助金の申請には、「経営計画書」、「事業計画書」などが欠かせません。しかし事業者のなかには、初めて計画書をつくるという方もいます。
今回は、「小規模事業者持続化補助金(令和2年度・コロナ特別対応型)」を例に、事業者と支援者の方に実際の申請書を見せていただきながら、計画書作成の際に気をつけたことや作成のポイントなどを教えていただきました。
申請補助金 | 令和二年度 小規模事業者持続化補助金(コロナ特別対応型) |
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補助事業 | ステイホームで味わう手作りあじ寿司セットのEC※販売化 |
申請者 | 株式会社たけし 代表取締役 武士 東勢 |
支援者 | 伊豆市商工会 経営指導員 齋藤 伸也 |
※ECとは、インターネットで販売すること
株式会社たけし
目次
1.補助金導入のきっかけ
「小規模事業者持続化補助金(令和2年度・コロナ特別対応型)」では、「非対面型ビジネスモデルへの転換」の取り組みに優遇措置が取られました。
このことが、補助金導入のきっかけになりました。
名物駅弁をインターネットで販売したい
株式会社たけしは、伊豆箱根鉄道修善寺駅で名物駅弁「武士のあじ寿司」などを販売。また同駅前で「駅弁カフェたけし」を運営している。
同社の駅弁は、地元食材にこだわっているのが特徴であり、グルメサイト「食べログ」の静岡県弁当ランキングで1位を獲得するなど高い知名度を誇り、観光客からの人気も高い。
しかし新型コロナウイルスの感染拡大により、同地を訪れる観光客が急減、これにあわせて駅弁の売上も大幅に落ち込んだ。
「資金繰りも含めて、会員である伊豆市商工会に経営相談をしたのが、今回の補助金導入のきっかけです」
経営相談の相手が、商工会経営指導員の齋藤氏だった。一つ一つの経営課題について話しあうなかで、武士社長からネット販売をしたいという話が出た。
「社長から駅弁をネット販売したいとの話がありました。しかし、ただECサイトを開設しただけでは課題解決にはつながらないということを伝えました」
2.経営計画書のポイント
インターネット販売につながる自社の強みを整理する
「小規模事業者持続化補助金(令和2年度・コロナ特別対応型)」の申請書を例に、経営計画書のポイントについて説明します。補助金の経営計画書では、「経営計画のなかで、補助事業をどのように位置づけるかが重要なポイントになります。
企業概要
企業概要では、沿革のなかで、経営革新への積極的な姿勢について触れた。
駅構内のコンビニ出店で売上が減少した際に、コンビニ弁当と差別化した駅弁商品「あじ寿司」を開発したこと。駅改装による客動線の変化にあわせて、「駅弁カフェたけし」をオープンしたことなどを記載。補助事業で取り組む、EC販売も経営革新の一つとして、位置づけた。
顧客ニーズと市場の動向を整理
企まず現状の顧客の7割が首都圏からの観光客であること。中高年の割合が多いことを記載した。顧客ニーズの項目では、補助事業を念頭に「美味しかったので、インターネットでも販売して欲しい」という顧客の声を記載し、EC販売についての潜在的なニーズの存在を説明した。
自社の商品・サービスの強みについて
①「松崎の桜葉」「天城の山葵」など地場産にこだわっていること、②防腐剤を利用しない手づくり商品であること(コンビニ等との差別化商品)、③百貨店イベント・マスメディアなどで知名度が高いことを柱に、自社の商品の強みを記載した。
経営方針・目標
「お客様に愛される企業を目指す」との経営方針とともに、BCPの着手、新しい販売スタイルの確立などを今後の目標として記載した。
「他製品との差別化のポイント、当社の強みを整理しながらまとめました」
「ネット通販の前提となる、知名度や商品力について客観的なデータを入れながら、説得力のある計画書となるようにアドバイスしました」
3.補助事業計画の書き方
商品コンセプトと販促戦略を明確にする
補助事業計画書は、具体的な事例や数字をベースにした説得力のあるものが求められます。事業効果については、補助金の目的にあわせて、記載する必要があります。
補助事業の概要
ステイホームで味わう手作りあじ寿司セットのEC販売化
補助事業では、コロナ禍を念頭に、「ステイホーム」をキーワードとして、「手作りあじ寿司セット」というEC用の新商品の開発を行うこととした。
「開発にあたっては、専門家の支援を提案しました」
商工会の専門家派遣制度を活用し、マーケティング専門家の支援も受けながら、商品開発をすすめた。話し合いのなかで、ターゲットを既存顧客層の40代またはファミリー層に設定することに設定。また、駅弁の「あじ寿司」というモノだけを売るのではなく、「旅行気分」というコトも一緒に提案するセット商品とすることが決まった。
「実は過去に棒寿司の真空パックに挑戦しましたが、ご飯が固くなってしまい、断念した経緯がありました。そこでEC販売商品は、食材(加工済み)を真空包装し、ご家庭で盛り付けをしてもらうカタチにしました。マーケティング専門家に入ってもらったことで、商品コンセプトが明確になり、とても助かりました」
最終的に、名物駅弁「武士のあじ寿司」をご家庭で、修善寺の旅行気分と一緒に味わっていたくという商品コンセプトで、伊豆近海の新鮮な鯵と伊豆産のお米、天城のわさび、修善寺の醤油、西伊豆の鰹節、秘伝のすし酢、お弁当の箱などのセット商品とすることになった。
補助事業の取組内容
- 〇 商品開発
- 商品コンセプトに基づいた①ロゴ・キャッチコピー、②パッケージ・リーフレットの作成について補助金を利用した。
ネーミングについては、「武士のおうち駅弁」とした。
- 〇 EC販売サイト構築・プレスリリース
- 補助金を活用し、「武士のおうち駅弁」専用のEC販売サイトを構築した。また、プレスリリースを積極的に活用し、ネットニュースなどによる地域内外・全国への発信を積極的に行うこととした。
「FacebookやInstagramなどのSNSを使い、自ら情報を発信するようにしました。受身ではなく『攻めの広報』を行うように心がけています」
「商品コンセプトを明確にしたことで、商品開発も情報発信もスムーズになりました。計画作成において、コンセプトが大切だと改めて感じました」
4.補助事業の効果
補助金を活用したことによる、現時点での効果についてうかがいました。
地元テレビ局、雑誌社からの取材も。
2020年10月より、EC販売を開始。名物駅弁「あじ寿司」が家庭で楽しめる「おうち駅弁」というニュース性と、積極的なプレスリリースの活用により、発売当初から売上は伸び、新型コロナウイルスにより売上減を補うことができた。
「コンセプトが目新しかったからか、『おうち駅弁』を地元テレビ局の番組でも取り上げてもらい、雑誌社からの取材も受けました。多くのグルメ情報サイトでも取り上げ、順調なスタートを切ることができました」
「ここからが本当の勝負だと思います。事業計画に基づいて、着実に成長していって欲しいと思っています」
同社では、補助金申請とともに商工会の支援を受けながら、「旅行気分を味わう修善寺おたのしみセットのEC販売」のテーマで「経営革新計画」の承認も受けた。今後も、専門家支援を受けながら、EC販売を積極的に展開するつもりだと言う。
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