起業直後、コロナ禍が直撃した飲食店の強みづくり【支援機関とともに 商工会編】
起業したばかりの経営者にとって、補助金の申請は大変です。「経営計画書」、「補助事業計画書」づくりが初めてという方も多いと思います。
今回は、飲食店オープン直後に新型コロナの影響で売上が低迷した事業者が、自店の強みづくりと周知のために、補助金を利用した事例をご紹介します。
事業者と支援者の方に実際の申請書を見せていただきながら、計画書作成の際に気をつけたことや作成のポイントなどを教えていただきました。
※申請種類は、申請当時のものであり、書式は現在と異なります。
申請補助金 | 令和元年度補正予算 小規模事業者持続化補助金事業<一般型> |
---|---|
補助事業 | コース料理の拡充と認知度向上による集客数、収益の向上事業 |
申請者 | 手打そば 由のや 代表 岩渕 貴志 |
支援者 | 静岡市清水商工会 由比支所 経営指導員 串 圭祐 |
補助金交付額 | 500,000円 |
手打そば 由のや
目次
補助金を申請したきっかけ
コロナ禍で、観光客・外食客が激減した
手打ちそば「由のや」は、静岡市由比地区のそば店である。店主の岩淵貴志氏は、もともと物流企業に勤めていたサラリーマンだったが、10年ほど前から趣味でそば打ちをはじめ、これを生涯の仕事にしたいと独立を決意。夫婦でそば店をオープンした。
店舗は、東海道由比宿の本陣跡にある由比本陣公園前の築100年近い古民家を改築したもの。開店にあたり物件を探していた時、この古民家を一目で気に入り、古民家の良さを活かした店舗をつくろうと決めたのだと言う。
「由比本陣は観光名所であり、多くの観光客が訪れます。集客も期待できるのではないかと考えました。古民家は、オープン前の約2年をかけて改装しました。左官の真似ごともしながら、できることはできるだけ自分たち夫婦で行い、改装費用を抑えました。」
慣れない改装作業に苦労はしたものの、とても楽しかったと振り返る。古民家の安らぎ空間のなかで、自分たちのこだわりの手打ちそばを味わっていただくことを考えると、オープンが待ち遠しく感じたとのことである。
そしていよいよ、2019年12月に開店。しかしオープンしてすぐ、コロナ禍に直面することとなる。
「新型コロナウイルスの影響で観光客は激減。集客も売上も当初の計画を大きく下回ってしまいました。」
そんな時に、地域の方にすすめられて商工会に経営相談に行った。そこで、小規模事業者持続化補助金の活用を提案された。
経営計画書のポイント
経営計画書は、「補助事業がなぜ必要なのか」の導入ともいえるものです。強みと課題を整理しながら記載していくことが重要です。
経営計画書では、古民家という強みを強調しながら、客単価向上のための戦略としてコース料理の充実を挙げています。
自社の強みとして、「古民家」を活用する
同店の強みの一つは、古民家を改築した趣のある店舗だ。「心が落ち着く、古き良き空間」は、お客様からの評判も上々だった。また、土間のある大広間や換気の良さはソーシャルディスタンスにも優れ、コロナ禍では強みになると考えた。そこで、経営計画書には、「木造の古民家」の写真を掲載しつつ、その利点を列挙した。
またあわせて、手打ちそばへのこだわり、由比と夫婦各々の故郷の特産を使った食材へのこだわりなど、料理の特色についても記載した。
客単価向上のためにコース料理の充実を図る
しかし、観光客を中心に集客が減っているのが喫緊の課題だった。
「コロナ禍で客数の減少は、避けられません。売上増のためには、いかに客単価を引き上げていくか。そのことについて話し合いました。」
もう一つの客単価向上のための戦略が、コース料理の強化である。東海道由比宿の歴史が息づく由比地域には寺社仏閣が非常に多く、法事・慶事ニーズが高い。この立地を活かして、コースメニューを充実させることで会食を増やしていくこととした。
「コース料理の客単価は、3,000円~5,000円程度に設定しました。古民家の落ち着いた雰囲気と空間の広さを活かしながら、ゆったりとお食事を楽しんでいただけることをアピールしていけば、差別化になると考えました。」
このことを踏まえて、「顧客ニーズと市場の動向」には法事や慶事向けのニーズがあることを記載。また、売上計画ではコース料理の売上を拡大していく数値目標を立てた。
補助事業計画のポイント
補助事業計画では、経営計画に基づいた「具体的な施策」について記載します。ローカル紙への広告出稿と、高性能フライヤーという補助事業が、どのように課題解決につながっていくのかを記載します。
高性能フライヤーで桜エビを強みにする
客単価向上を図るための戦略の一つが「桜エビ」だった。駿河湾に面した静岡市由比地区は、全国的に桜エビが有名である。そばと一緒に、桜エビのかき揚げを求めるお客様も多い。
桜エビをお店の強みにするために、小規模事業者持続化補助金ではかき揚げ用の「高性能フライヤー」を導入することとした。そばと、桜エビのかき揚げをセットにすることで、客単価の向上を狙った。
「高性能フライヤーを導入したことで、かき揚げを揚げられるようになりました。団体客にもアツアツの揚げ物が提供できます。」
高性能フライヤーは、コースメニューの幅を広げることにもなる。そばだけでなく、揚げ物も強みの一つにしていく計画だ。
地元メディアとSNSで認知度を上げる
開業して間もないこともあり、店舗の認知不足も課題の一つだった。小規模事業者持続化補助金を活用して地元ローカル紙に広告を出稿することにした。地元ローカル紙を選んだのは、まず地域の認知度を高めるためである。また法事・慶事は、高齢層の方がメインターゲットとなるため、ローカル紙の購読層にマッチしている。
もう一つ認知度を上げる一つとして、「ランチ」の充実に取り組んだ。
「ランチについては、観光客だけでなく地域の方に使っていただくように、お手頃な価格設定にして、来店のきっかけづくりとなるように心がけました。」
お得感のあるランチは、地元のテレビ番組に取り上げられ、女子会などの利用が増え、顧客の幅を広げることにつながった。
また地域コミュニティにも積極的に参加し、そば打ち教室を開くなどの活動を行った。さらに、ホームページやSNSの活用もはじめている。
「SNSは費用もかからず、PRすることができるツールです。積極的に活用していくようにすすめました。」
お店のInstagram、facebookで、新メニューや店主のこだわりを中心に紹介することで、草の根での認知度向上を図っている。
補助事業の効果
コロナ禍ではありますが、会食の予約数や問い合わせの増加、顧客単価アップにつながっている状況です。また、補助金申請の経験が、どう役立ったかについてうかがいました。
方針・戦略が明確になり、不安が軽減した
2021年2月現在、コロナ禍の収束の見通しは不透明であり、飲食業の苦境は続いている。小規模事業者持続化補助金の「事業再開枠」を追加申請し、空気清浄機能付きのエアコンを導入するなど、新型コロナウイルス感染防止対策に万全を期し、営業しているところだ。
「古民家ということもあり、広い空間があったことが幸いしました。席数を減らしながらも、営業を続けています。」
観光客は減少したが、ホームページやSNSなどを通じて認知が高まったことで、周辺地域の方が来店するようになった。またコースメニューを充実したことで、少人数の法事の利用も増えてきたと言う。
「コロナ禍で先行きが見えないなかで、小規模事業者持続化補助金の申請で経営計画書を作成したことで、経営方針や経営戦略が明確になり、不安が軽くなりました。」
開業にあたって、料理へのこだわり、店舗へのこだわりはあったが、経営については知識も経験も不足していた。補助金申請を通じて、商工会の経営指導員にサポートしてもらいながら、理念・方針・戦略をまとめたことで、経営者としての視点を持てるようになった。このことも補助金効果の一つだと言う。
その他
洋式トイレが重要です。和式トイレでは高齢者・外国人等の予約をいただくことが困難なので洋式トイレです。
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