事例から学ぶ!「コスト削減」
企業の利益は、基本的に「売上-コスト(経費)」です。利益を増やすには、売上を増やすか、またはコストを減らすしかありません。
さて企業活動のコストには、原材料費、人件費、交通費、販促費、水道光熱費、家賃などがあります。このようなコストを減らしていけば利益は増えますが、コスト削減の結果、社員のモチベーションが低下したり、品質・サービスが低下したりしたら、本末転倒です。
コスト削減にあたっては、収益を上げるために必要不可欠なコストと見直し可能なコストを見極める目を持たなくてはなりません。
また、単に直接的な支出を抑えるのではなく、業務の効率化・改善や働きやすい環境づくりを進めていくことで、企業全体としてコスト削減につながることもあります。
今回は、ミラサポplusの「事例ナビ」から、このような様々な視点で「コスト削減」を進めている事例をご紹介していきます。
コスト削減の目的と目標を「数字」で明確にする
コスト削減は単なる節約ではなく、収益力改善、経営改善です。
このことを踏まえて、コスト削減に取り組む前に、現在の企業活動でどのようなコストが発生していくのか把握しましょう。そのうえで、どの項目で、どのくらいコストを削減していくかという目標を決めます。コスト削減には財務面からのアプローチが欠かせません。さもないと、「節約を声高に叫ぶ」だけの精神論で終わってします。
静岡県の物流サービス企業の経営者は、リーマンショック不況を機に会計・財務を学び、財務指標等に基づいた数値目標を設定しています。
コスト削減をすすめる際にも、「電気代などの経費を3%節減することができれば収益維持が可能」という具体的な数字を挙げて、コスト削減の目的と目標を従業員に説明しています。
スマートフォンの普及で主力だった携帯ストラップの需要が急減。そこにリーマン・ショックも重なり、根拠のない営業ノルマを社員に課すも、2010年の売上げはピークの3分の1に落ち込んだ。社長は会計と財務を徹底的に学び、財務指標を経営判断に活用。財務指標に基づいた、意味のある数値で目標を設定し、従業員との信頼関係やモチベーションを維持。事業転換を進めながら、高収益体質へと変貌し財務内容も改善させた。感染症流行下でも赤字転落を逃れ、マーケティング戦略の見直しと組織改革を行った。
なぜ、数字で説明するのかというと、コスト削減は痛みがともなうものだからです。コスト削減をすすめていくうちに社内の不平不満が高まり、計画が思うように進まないこともよくあります。会社全体で意識を統一し、従業員にコスト削減の大切さを理解してもらうためには、数字が最も説得力があります。
スクリーン印刷を得意とする和歌山の印刷会社は、毎月の販売実績だけでなく、変動費、固定費、固定費率の推移を生産品目と関連づけて、従業員に発表しているそうです。収益とコストを「見える化」すると、コスト削減の努力が収益につながっていることが、従業員にも分かるようになります。この会社では、従業員から収益改善のためのアイデアが活発に出るようになったそうです。
毎月の販売実績だけでなく、変動費、固定費及び固定費率の推移を生産品目と関連付けて見える化することで、従業員個人の日常の創意工夫が会社の業績とつながっていることを理解してもらうような仕組みを作った。また、経営方針も売上高重視から利益率重視に転換。新製品の開発に当たっては、自社の強みを十分にいかせるか、投入する市場に安定性はあるか、といった点を丁寧に考慮するようになった。
エネルギーコストを下げて、コスト削減
コスト削減と聞いて、真っ先に思いつくのが、節電などのエネルギーコストの削減ではないでしょうか。水道光熱費などのエネルギーコストは削減効果が目に見えるため、コスト削減の第一歩として取り組む企業も多いと思います。
よくあるエネルギーコストの削減策としては、LED電球や人感センサーなどの節電機器の導入、エアコンの設定温度の見直しやクールビスの推奨、契約する電力会社・ガス会社の見直しなどでしょうか。ただし、エネルギーコストの削減が行きすぎて、労働環境の悪化につながらないように注意しなくてはなりません。
太陽光発電システムの導入は、エネルギーコストの削減方法の一つです。ただし、メリットとデメリットの両方があるで、導入にあたっては採算性を十分に検討する必要があります。
滋賀県でガソリンスタンド経営する会社は、スタンドのキャノピー(屋根)の上にソーラーパネルを設置して併設するコンビニエンスストアに電力を供給し、電力コストを削減しています。あわせて、各店舗の顧客情報を一元管理する「顧客管理システム」を導入して事務業務の効率化し、コスト削減を進めているそうです。
燃料油販売以外の事業(自動車販売、車両コーティング・洗車など)にも注力し、顧客をより幅広く手厚くサポート。 新たな設備導入により効率化、省エネルギー化を実現。
エネルギーコストの削減は、「カーボンニュートラル」や「SDGs」にも関わってくるテーマです。
神奈川県の印刷会社は、社屋の屋根上にソーラーパネルを設置し、工場全体の20%の電力を自家発電で補っています。残りの80%についても風力発電による電力を使用することで、再生可能エネルギー100%の工場を実現させました。また、印刷用紙もFSC森林認証紙を使用するなどのSDGsへの取組みをすすめ、社内外にアピールしています。
いま国では2050年カーボンニュートラルをめざし、「グリーン成長戦略」を進めています。
脱炭素を進めるための補助金や制度融資等の支援策を活用し、エネルギーコスト削減につながる設備を導入するのも一つの方法です。
2015年に国連サミットで「持続可能な開発目標(SDGs)のための2030アジェンダ」が採択されたことをきっかけに、一部の大企業でCSR活動を推し進める動きが見られ始めた。大川社長は、こうした活動は自社のこれまで手掛けてきた数々の本業を通じた社会課題解決の活動を整理し、更なる飛躍につなげられる取組であると考え、SDGsを経営計画の中核に定め、SDGsを推進するプロジェクトチームを発足させた。
働きやすい環境づくりを通じて、コスト削減
企業活動のコストのなかで大きな割合を占めるのが、人件費。人件費には、基本給、残業代、通勤手当、家賃補助、退職金の他、福利厚生費も含まれます。
ただし、安易な人件費の削減は従業員のモチベーション低下に直結します。人件費を削減したことで、生産性や品質・サービスが低下したら、元も子もありません。コスト削減のために人数を減らしたため、残業時間・残業代が増えてコスト増になったら、目も当てられません。
人件費を削減する前に、働きやすい環境づくりを進めて業務を効率化することで、トータルコストの削減を考えていきましょう。
三重県の工務店は、フリーアドレスの導入などにより、社内のコミュニケーションを活性化しています。フリーアドレスというのは、社員の専用デスクをなくし、空いているデスクで仕事をする方法です。フリーアドレスにより、役職間・部署間の距離が縮まったことで業務の効率化がすすみ、常態化していた残業時間を15%削減することに成功しました。
フリーアドレス制は、社内コミュニケーションの活性化だけではなく、オフィススペースの有効活用=地代家賃の削減にもつながる手法として注目を集めています。
「お仕事見学会」や「インターンシップ」を通じた新卒者への魅力発信により、新卒の技能工の採用に成功。 長時間労働、休日出勤などの業界の慣習を打破するために、インタラクティブホワイトボードやフリーアドレスの導入で、社内のコミュニケーションを活発化し業務を効率化。 就業規則に「グッド○○制度」を明記し、チャレンジ精神を醸成することで、社員のモチベーションが向上し顧客が増加。
人件費ではありませんが、「ヒト」に関係するコストの一つに採用コストがあります。企業説明会の開催や求人広告の掲載などの費用です。採用してもすぐに辞められたら、これらの採用コストや教育コストがムダになってしまいます。
離職率を下げることは、コスト削減に直結します。
たとえば、東京都の体験ギフトを企画販売する会社は「リモートワーク」「副業」「子連れ出勤」「時短勤務」「週4日勤務」など、従業員の事情や要望を考慮した勤務環境を整えています。多様な働き方を提供することで、優秀な人材が定着し、結果として採用コストの削減につながっています。
リモートワークは、柔軟な働き方への対応だけでなく、交通費(通勤手当)の削減、家賃(オフィス面積)の削減にも貢献します。
社員の個々の事情を考慮し、「リモートワーク」「副業」「子連れ出勤」「時短勤務」「週4日勤務」など多様な働き方を認め、優秀な人材が定着。 試行しながら働きやすい環境づくりを進める中で、まずは試行してみるという社風が醸成され、業務上の課題の改善にもつながり、企業の利益が向上。
デジタル化+業務フローの改善で、コスト削減
ITツールを導入して業務を効率化し、コスト削減につなげるという話はよく聞きます。しかし、安易に考えると非常に危険です。
デジタル化にあたっては、一つ一つの業務を分析し、業務フローを明確にし、必要に応じて見直し・改善をしたうえで、最適なITツール・ITシステムを導入する必要があります。デジタル化と業務フローの分析・改善は、必ずセットで考えてください。
愛知県の自動車部品メーカーは、間接部門のデジタル化にあたって、現場の問題点や改善事項をヒアリングしました。そのうえで、業務をフローチャート化し、どの作業に時間がかかり、どこにムダがあるのかを洗い出しました。そのうえで、現場に即したシステムを導入しています。
デジタル化は、①業務における課題の把握、②業務フローの見直し・改善、③ITツールの導入という手順ですすめます。この手順を間違えると、業務の効率化やコスト削減にはつながりません。
生産管理システムでの成功体験を踏まえて、業務効率化が課題となっていた間接部門のデジタル化に乗り出した。 現場業務をフローチャート化し、どの作業に時間が掛かり、どこに無駄があるのかを洗い出し、給与明細や年末調整の電子化など、できるだけ現場に即したシステムを導入。 最初はデジタル化への不安を抱えていた従業員も、現場の負担が減ることが分かると「これもデジタル化により合理化できないか」と、改善提案をする従業員も数多く現れ、部門を超えた改善活動が社内に定着している。
他社との連携による経営効率化で、コスト削減
大企業と比較して、中小企業は、ヒト・モノ・カネ・情報の経営資源が不足しがちです。そこでお互いが連携することで弱点を補い、コスト削減につなげることもできます。
たとえば、他社と連携して調達プロセスを一本化する「共同調達」という方法です。共同調達により、スケールメリットが働き、価格交渉がしやすくなります。調達に関わる事務コストも削減できます。
宮城県の水産加工食品会社は、地域の同業者と「販路の共有」、「設備の共有」、「ノウハウの共有」、「人材資源の共有」、「原材料の融通」について業務提携を結びました。
同業者と連携して、一括仕入してもらうことで、原材料費を削減しました。また営業活動も連携することで販路拡大にもつなげています。
水産加工業を営み、駅前の商業施設に直営の物販店も展開していたが、感染症の流行により売上げは急激に落ち込んだ。2020年5月、以前から親しい付き合いのある地域の同業者の株式会社鮮冷と、経営効率化と販路拡大などを目指し業務提携契約を結んだ。 仕入量が圧倒的に多い鮮冷に一括仕入れしてもらうことで原材料費が下がり、粗利が拡大した。また、営業時に互いのパンフレットを持ち合うなど連携して販路拡大に努めたことで、マルキチ阿部商店は新規取引先を開拓できた。
コスト削減=収益力改善は、継続的に実施する
繰り返しになりますが、コスト削減は単なる節約ではありません。その目的は、収益力の改善にあります。部分的な改善ではなく、継続的に利益を生み出していくためのトータルな改善を図ることが大切です。
またコスト削減は、いままでのやり方を変えることですから、従業員にとって負担であり、不平不満が生じることもよくあります。従業員にコスト削減の重要性を理解してもらい、意思を統一することが欠かせません。
今回の事例のように、企業によってコスト削減の方法は様々です。ぜひ、よろず支援拠点などの経営相談窓口を活用しながら、幅広い分野の専門家の支援を受けながら、コスト削減=収益力改善を進めていってください。
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