事例から学ぶ!「品揃え」
良い「品揃え」って、一体どのようなものでしょう。
理想論で考えれば、来店するお客様が求める商品がすべて揃っていることが、良い品揃えかもしれません。しかし、店舗のスペースには限りがあります。すべてのお客様のニーズに応えるために、品揃えの幅を広げれば仕入のコストや在庫の負担が大きくなります。
良い「品揃え」のためには、「誰に対して、どんな商品を、どのように販売していくのか」という「販売戦略」の視点が欠かせません。
今回は、ミラサポplusの「事例ナビ」のなかから、そんな「品揃え」のアイデア・ヒントにつながる事例をご紹介します。
ターゲットを絞った「品揃え」で、他社と差別化
いまネット通販が急成長を続けています。たとえばアマゾンのような大手ネット通販企業は、ないものはないと言えるほどの「圧倒的な品揃え」と、AIを活用した「おすすめ商品の表示機能」などを強みにシェアを伸ばしています。さらに最近は、ネットスーパーが登場し、食品や日用品をネット注文することも当り前になってきました。
中小の小売店は、品揃えの量ではネット通販や大型ショッピングセンターにとても敵いません。これらの競合他社と差別化し、生き残っていくためには、ターゲットを絞り込み、ターゲットにあわせた品揃えをすることが必要です。
福岡県のある食品スーパーは一度閉鎖されましたが、高齢者を主なターゲットにした地域密着型スーパーとして再生、再出発しました。高齢者のニーズや好みにあわせた惣菜・弁当の提供、高齢者向けの宅配サービスの拡充などに取り組み、近隣の大型スーパーと差別化することで、売上高で昨年比20%アップという成果を上げることができました。
厨房設備の導入によって、高齢者の求める「おかずセット」「おさしみ少量パック」「少人数用の調理済みの魚」等の供給体制が完成し、お客様のニーズにきめ細かく対応できるようになった。この結果、売上高で昨年比20%アップ、営業利益で2.5倍を見込めることとなり、近隣の大型スーパーに対抗できる体質を確立した。
ネット通販の登場で、いちばん打撃を受けたのが「町の本屋さん」ではないでしょうか。大手ECサイトの「膨大な品揃え」という強みは、書籍という商品特性と非常に相性が良く、ネット通販の台頭により、従来型の書店は次々と姿を消しています。
このようななかで、愛知県の古書販売店は大手ECサイトと差別化して、子供向け絵本に特化した「書籍移動販売」というビジネスモデルを確立しました。このビジネスは、町の本屋さんが姿を消すなかで、「子どもたちが絵本に触れる場を提供したい」との思いから始まったそうです。小さな子どもをターゲットにした「絵本」という品揃えと「移動販売」という販売方法がビジネスモデルの強みになっています。
子供向けの絵本に特化し、絵本の楽しさを体験・共有してもらうために、他社では真似できない絵本の移動販売というビジネスモデルを確立した。
仕入れからこだわる「品揃え」で、競争力を高める
競合他社と似たような「品揃え」であれば、最終的には「いくら安くするか」という勝負になります。これでは、売上も利益も上がりません。他社にはない商品を品揃えすることで、価格競争を避けるとともに、お店の固定ファンを増やすことができます。
山梨県のあるスーパーは、「近隣の競合店では扱っていない商品」を販売するため、新たな仕入先の開拓、仕入先を選定する目利きができるスタッフの採用、おいしい惣菜を充実させる料理人の採用などに取り組みました。
ただし独自性の強い商品は、他社と比べて安価ではないことから、なかなか手にとってもらうことができないという欠点がありました。そこで、同店では、POP広告と店内放送に力を入れ、こだわりの商品の説明に力を入れ、その魅力を積極的にアピールしました。ユニークなPOPやマイクパフォーマンスは評判となり、マスメディアからも注目を集めることになりました。現在は、独自性の強い商品がお客様に受け入れられ、顧客単価・顧客数とも大きく向上しています。
他社と同じものを売っているだけでは価格競争に巻き込まれ、業績改善も見込めないと考え、近隣の競合店では扱っていない商品を集めて販売することにした。具体的な取組としては、単価も質も高い野菜を栽培する地元の農家を対象とした新たな仕入先の開拓や、安さではなくおいしさで仕入先を選定できる能力のあるスタッフの採用、よりおいしい惣菜を開発するための腕の立つ料理人の採用などにより、独自性の強い商品をそろえることに成功した。ところが、独自性の強い商品は陳列するだけでは、消費者になじみがなく、他社に比べて安価でもないため、なかなか手に取ってもらえなかった。そこで那波社長は、顧客が品定めをする際に、独自性が強い商品の価値をしっかり伝える必要があると考えた。
関連商品を組み合わせた「品揃え」で、客単価向上
品揃えや陳列の方法として、「クロスマーチャンダイジング」があります。スーパーのお酒販売のコーナーでおつまみが販売されていたり、牛肉のケースの横に焼き肉のタレが陳列してあったりしますが、これはクロスマーチャンダイジングの代表例です。これは、お客様に「ついで買い」を促して、客単価を上げることを最大の目的とします。なお、ネット通販で「この商品を購入した人はこんな商品も購入しています」と表示されるのを見たことがあると思いますが、これもクロスマーチャンダイジングの一種です。
クロスマーチャンダイジングでは、カテゴリーは異なるが関連性のある商品を組み合わせて陳列して購入意欲を高めていきます。この考え方は、小売店だけではなく、様々な業種に応用することができます。
たとえば、長崎県のある民宿は釣り人をターゲットに「宿泊・飲食・釣り」のセットメニューを提案して、宿泊客を増やしています。これは宿泊と釣りというカテゴリーの異なる商品を組み合わせることで、客単価の向上と差別化を図っている事例になります。
HPを立ち上げて、九州・関西方面より20名前後の団体客から釣りとセットにした予約を頂いております。HPからの問い合わせが増加し、「宿泊+釣り」での売上の増加が期待出来るようになりました。また、問い合わせにより、お子様でも釣りを楽しむことが出来るという事で親子での家族客の宿泊も増えて来ました。
カタログを製作配布した事で、島外の会社関係からも問い合わせが多くなりました。従業員の忘年会と合わせた釣り旅行的な問い合わせも多くなり、お客が増えています。
コンセプト・「品揃え」が異なるインショップを店内に設置
店舗のコンセプトと、品揃えは深くかかわっています。店舗のコンセプトを無視して、安易に品揃えを変更すると、既存のお客様が離れてしまいます。
このようなリスクを抑えつつ、新規顧客の獲得を図るために、店舗内に別コンセプトの独立したコーナーを設置するのも一つの方法です。
宮崎県の婦人衣料品店は、店舗内にヤングミセス層をターゲットにしたインショップ形態の独立コーナーを設置しました。このコーナーでは、品揃えもディスプレイもヤングミセスを意識し、いままでの店舗とは大きく変えています。また後継者に、インショップ運営の権限を与えることで、事業承継に向けた教育も行っています。
店内改装と最新の陳列什器を配置したディスプレイを行ったところ、商品回転率が3倍、売上高も1.5倍になった。また、ヤングミセス層が増加したことで、既存顧客層にも新たな刺激を与えることとなり、売上単価の増加というシナジー効果も発生した。
特定分野の「品揃え」を充実させて、コアな顧客を獲得
特定分野で圧倒的な「品揃え」を実現することで、競争力を高める戦略があります。とくに、全国・全世界をターゲットにするネット通販の世界ではこの戦略は有効です。大手ECサイトとの差別化を図るためには、特定分野での品揃えを充実させること、「カテゴリーキラー」となることが必要です。
大阪府の専門商社は、金属部品のなかでも「ねじ」分野に特化したネット通販で実績を上げています。「顧客が求める多種多様なねじをワンストップかつ即日発送で提供」するために、ITツールを導入するとともに、商品配送の効率化・自動化を図り、100万超のアイテムの品揃えと即納体制を両立させています。
「顧客が求める多種多様なねじをワンストップかつ即日発送で提供」するビジネスモデルを人手をかけずに実現するために、早期よりITを活用して全商品のデータベース化により一元管理し、更に自動立体装置等の先端設備や高精度のピッキングシステムの導入を実施。商品発送の効率化・自動化及びピッキング精度の向上によって、100万超のアイテムの品揃えと即納体制を両立させ、顧客利便性の向上及び競合他社との差別化を実現して、幅広い顧客の獲得・商圏の拡大を進めている。
このように中小企業は、品揃えの「幅」を広げるよりも、品揃えの「奥行」を深くすることで他社との差別化を図る企業がたくさんあります。特定の分野に特化することで、少数でもストアロイヤリティの高い顧客(固定ファン)を獲得し、経営を安定させることができます。
あえて品揃えを絞り、奥行を深くするという考え方は、様々な業態でも応用の可能です。
高知県の菓子店は、もともと地域の食材や料理や菓子を提供するカフェとしてスタートしましたが、商圏人口が少ないこともあって経営面で苦戦していました。そこで、ドイツの伝統的なパン菓子「シュトーレン」をメインに絞り、カフェから菓子店に業態を転換。地域に食材を活かしたシュトーレンのストーリーをHPやSNSで発信したことで、地域はもとより全国からの注文も増えています。
東京から四万十町に移住した夫婦が地域で採れた作物を使った料理や菓子を提供するカフェをオープンしたが、経営面では苦戦。よろず支援拠点や支援機関の支援を受け、強みを考え直し、シュトーレンをメイン商品に据えた菓子製造小売店に業態転換。 自社と商品に関するストーリーをHPやSNSで、動画を交えて発信し、顧客の共感を呼び、SNSで口コミが広がり、購入者は増加。手紙で満足感を伝えてくれる購入者も現れるなど、着実にファンを増やし、感染症流行下でもシュトーレンの注文本数は前年比60%増となった。
販売戦略の視点から、「品揃え」を考えることが大切
様々な事例を通じて「品揃え」のアイデアを紹介してきましたが、品揃えは、「誰に、どんな商品を、どうやって売っていくか」という販売戦略の視点に立つことが大切です。
販売戦略を考える時には、「Costomer(顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」という3つのCで、自社と自社を取り巻く環境を整理すると分かりやすいと思います。
はじめに、自社のターゲットとする「Costomer(顧客)」のニーズがどこにあり、どんな商品を求めているのかを把握します。次に「Competitor(競合)」、競争相手が顧客のニーズにどのように応えようとしているのか、どのような品揃えをしているのかを調査します。
そのうえで、「Company(自社)」の強みを活かすための品揃えはどうあるかを検討していきます。
経営者の思いが強いあまり、品揃えが独りよがりになってしまったら、顧客のニーズを満たすことはできません。アンケート等で顧客ニーズを把握したり、競合店の品揃えを調査したりしながら、3Cを意識しながら、品揃えを考えていきましょう。専門家の意見を聞いたりすることも時には必要です。品揃えを見直して、売上増につながった事例も数多くあります。
よろず支援拠点や商工会・商工会議所などの経営相談で、品揃えについてアドバイスを受けるのも良い方法です。専門家の視点・マーケティング視点からのアドバイスが、品揃えのヒントになるかもしれません。
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